初めて妊娠を経験すると「産休がどのような制度か分からない」「どうやって取得すればいいの?」と悩む人は多いものです。安心して出産を迎えるためにも、産休の詳細や取得までの流れ、受け取れる手当について確認しておきましょう。
産休とは?
働く女性が妊娠したときにはじめて「産休制度とは何か」について考える人は多いものです。言葉は知っていても具体的にどのような制度か分からないという人もいるでしょう。
出産を控える女性が使える制度には、産休以外にも「育休制度」がありますが、ここでは産休に焦点を当てて説明します。
労働基準法で定められている制度
産休は、正しくは「産前・産後休業」といいます。
労働基準法で定められている制度で、働いている女性なら正社員・契約社員・派遣社員・パート・アルバイトなど雇用形態に関わらず誰でも取得が可能です。
企業は、産休を申請した女性労働者の申請に応じる義務があり、産休の取得を拒否する・産休を理由に解雇することはできません。
子どもを養育するときに取得できる「育児休業(育休)」の場合は、「1年以上雇用されている」「育休後も雇用関係が続く」のように条件があります。
一方で産休は、勤務継続期間に関わらず申請できるため、入社してすぐに妊娠が判明した場合でも利用できるのです。
いつからいつまで取れる?
産前休業と産後休業は、休める期間や取得方法に違いがあります。出産前は、体調だけでなく精神的にも不安定になりやすいものです。それぞれの違いを事前に確認しておきましょう。
産前休業は出産予定日の6週間
産前休業は、出産予定日の「6週間前(妊娠34週目)」から取得できます。双子以上の場合は、請求すれば「14週間前(妊娠26週目)」から取得可能です。
出産予定日から計算するため、予定日より早く生まれた場合は短く、遅く生まれた場合は長くなります。
ポイントは、「本人の申請が必要」なことです。企業側としても、本人からの申請がなければ、出産日まで就業させることは法律上、問題ありません。
産前休暇の開始日を自由に決めることもできるため、本人が「ギリギリまで働きたい」と望むのであれば、休まずに直前まで働くことも選択できます。
出典:【就業規則見直してみませんか? – 産前産後休業・育児休業について】新潟の税理士がお送りするブログ | あおば会計
産後休業は出産翌日から8週間
産後休業は、出産翌日から「8週間」取得できます。
「休業することを法律で定められている」ため、原則的に取得しなければなりません。会社への申し出が必要ないことも、産前休業との違いです。
ただし、産後6週間を過ぎた時点で医師が認めた場合は、本人の請求により職場復帰を早められます。
しかし、出産後の女性の体調はとても不安定です。生まれたばかりの子どものことを考えると、できる限り側にいたいと考える人は多いことでしょう。
制度上は復帰を早めることもできますが、自分の体調と子どものことを考え、ゆっくりと休みを取ることを検討しましょう。
受け取れる手当や免除される制度
産休中は、基本的に会社からの給与は発生しません。企業の福利厚生として「手当」や「お祝い金」が支給されることもありますが、必ずしも支給しなければならないという法律的な取り決めはありません。
しかし、国や保険制度から「受け取れる手当」や「免除される制度」の利用が可能です。お金の不安を解消して、安心して出産を迎えましょう。
出産手当金
健康保険から給与の2/3相当が「出産手当金」として支給されます。出産前42日(多胎妊娠の場合は98日)から出産後56日までの期間、産休の日数分もらうことが可能です。
支給を受けるためには以下のような条件があります。
- 勤務先で健康保険に加入
- 産休後に職場復帰する
- 産休中に給与の支給がない、もしくは出産手当金より少ない
出産手当金は、申請が必要です。支給は、受理されてから約1~2カ月が目安です。
ただし、家族の扶養に入っている人や国民健康保険に加入している人は、支給の対象外です。会社から給与や手当が出る場合は、その分を差し引いた額が支給されます。
出典:あなたも取れる!産休&育休|厚生労働省
出典:出産に関する給付 | 健康保険ガイド | 全国健康保険協会
出産育児一時金
「出産育児一時金」は、検診や分娩など出産にかかる費用を軽減してくれる制度です。
健康保険や国民保険に加入した上で、妊娠4カ月以上で出産した人であれば対象に該当します。なお、早産・死産・流産・経済的理由による人工妊娠中絶も含まれます。
生まれくる子ども1人あたり42万円で、双子は84万円、三つ子は126万円が支給されます。
ただし、妊娠22週目未満での出産・産科医療補償制度未加入の病院や産院で出産した場合は、支給額は子ども1人あたり40万4000円です。
受け取り方法にはいくつかの種類がありますが、病院側が申請・受け取りを行う「直接支払い制度」を利用すると、請求額と支給額を相殺し、差額のみで会計できます。
出典:出産に関する給付 | 健康保険ガイド | 全国健康保険協会
出典:産科医療補償制度の概要|加入分娩機関検索
社会保険料の免除
産休中は、厚生年金保険料や健康保険料などの「社会保険料が免除」されます。これにより将来受け取れる年金が減額・健康保険の給付が受けられないことはありません。
ただし、「住民税」は前年度の収入により決定するため、産休中も発生します。その代わり「出産手当」や「出産育児一時金」は課税対象外なので、次年度の住民税は抑えられるでしょう。
社会保険料の免除は、本人から申し出を受けた企業が、年金事務所に届け出ます。
基本的には産休の申請とセットで行われますが、不安や疑問があれば人事部などに確認しておきましょう。
国民年金の免除
2019年4月からは、産休に入る人の「国民年金が免除」されるようになりました。第1号被保険者が対象であり、第3号被保険者(夫の扶養に入っている妻)は対象外です。
出産予定日の6カ月前から申請可能で、出産予定日または出産日の前月から4カ月の間が免除されます。
ただし、自動で免除になる訳ではありません。住民登録している市区町村の役場内・国民年金担当窓口に届出が必要です。忘れないように、早めに準備しておきましょう。
産休を取得するまでの流れ
初めて妊娠・出産を経験する人は、右も左も分からないことばかりでしょう。特に妊娠が判明したばかりでは、「会社にどう説明したらいいの?」「申請はどうすればいい?」と不安も多いものです。
産休を取得するまでの一通りの流れを確認しておきましょう。
会社に妊娠を報告する
妊娠が分かった時点で上司や会社に報告しましょう。出産予定日や産休を取る予定は、早めに連絡しておくと仕事の調整がスムーズです。
妊娠中は、病院に所定回数の受診をする必要があります。企業は受診のための休み・医者が判断した休みを確保する義務がありますが、有給・無給になるかは企業規定によります。
お腹の子どものためにも無理は厳禁です。産休前までは、時短勤務を希望する・業務内容の軽減・深夜勤務の制限なども請求できます。
体調の変化は小まめに報告し、必要であれば産休前でも休みを相談しましょう。
産休の申請をする
産前休業を取得する場合は、出産予定日の6週間前までに申請を済ませておきましょう。産後休業は、休業義務があるため申請は必要ありません。
産休申請の手続きは、企業によって異なるため、事前に確認しておくと安心です。
また、住民税の徴収方法は、復職後に徴収・休業前の給与から徴収・普通徴収に切り替えるなどのパターンがあります。
企業により定められていることもありますが、希望する方法があれば事前に相談しておきましょう。
また、復職後のスケジュールも大まかに相談しておくことも大切です。変わらず勤務したい旨を伝えておくことで、企業側との意思疎通に相違がありません。
産休に入る前の注意点
産休前には、休みの申請以外にもいくつかやることがあります。復職後のことも考えて、産休前に済ませておきたいことをチェックしておきましょう。
引継ぎをしっかり行う
産休中は、自分が担当していた業務をほかの人が担当します。後任が不自由しないように引継ぎをしっかり行いましょう。
業務の一覧をまとめておく・スケジュールの作成・作業手順のマニュアル化など、円滑に業務を進めるように前もって準備しておくと丁寧です。
また、十分に引継ぎをしたつもりでも、あなたに確認しなければ分からないことが発生するかもしれません。万が一の事態に備えて、連絡先を共有しておくことも大切です。
社内・社外への挨拶も忘れないで
産休に入る1カ月前以降を目安に社内・社外の人への挨拶も忘れずに行いましょう。特に、お世話になっている上司や同僚、仕事を共にするメンバーには、顔を見て挨拶することが大切です。
個別にお礼のメールやお菓子の差し入れなどをしておくことで、産休中・復職後も関係を保ちやすいでしょう。
社外の人には、訪問のタイミングに合わせるなど可能な範囲で直接挨拶しておくのがベターです。難しい場合は、メールによる挨拶と合わせて、最終出社日・後任者の情報を伝えておきましょう。
安心して産休に入るためにもきちんと準備をしよう
産休は、法律によって定められている制度で、誰でも取得できます。ただし、申請が必要なものも多く、事前に申請に向けた準備が必要です。また、安心して妊娠を迎えるためにも、産休に入る前には、引継ぎや挨拶まわりをすることも大切です。自分が利用できる制度を把握した上で、きちんと準備をしておきましょう。
文・構成/HugKum編集部