目標12「つくる責任つかう責任」
2015年の国連サミットでSDGs(持続可能な開発目標)が採択されました。世界が抱える問題を社会・経済・環境の3方面から捉え、17のゴール・169のターゲットで示した国際目標です。
達成期限である2030年までに、世界はどのような課題を解決しなければならないのでしょうか? 目標12「つくる責任つかう責任」について見ていきましょう。
持続可能な生産消費形態とは?
SDGsの目標12は「持続可能な生産消費形態を確保する」です。「持続可能な生産消費形態」とは、地球や環境に負荷をかけず、次世代の資源を守りながら生産や消費をすることを指します。
人類は産業革命以来、地球の資源やエネルギーを活用し、大量生産・大量消費のパターンを築きました。生活に豊かさや便利さがもたらされた半面、地球規模の環境問題が顕在化しています。
目標12は「供給連鎖(サプライチェーン)」における生産者と消費者の責任を明確化したものです。私たちには「より少ない資源でより多くの良質なものを生み出すこと」や、「資源の無駄遣いをやめ、廃棄物を最小限に減らすこと」などが求められています。
参考:JAPAN SDGs Action Platform | 外務省
人類が地球の資源を食いつぶす
目標12が掲げられた背景として、人類の大量生産・大量消費のパターンによって、地球が危機的状況にあることが挙げられます。今のままの生活を続ければ、地球の資源は枯渇してしまうでしょう。
「エコロジカル・フットプリント(以下、EF)」は、人類が地球に与える負荷を表面積で示した指標です。世界のEFは2013年の時点で地球1.7個分に相当しており、次世代の地球資源を食いつぶして、今の豊かな生活が成り立っていることが分かります。
地球が年間で生み出す自然資源を人類の資源消費が上回る日は、「アース・オーバーシュート・デイ」と呼ばれます。Global Footprint Networkによると、2021年は7月29日にオーバー・シュートを迎えました。わずか8ヶ月足らずで、人類は「地球の予算」を使い切ってしまったのです。
参考:
環境省_平成30年版 環境・循環型社会・生物多様性白書 状況第1部第3章第1節 持続可能性と豊かさの評価
Earth Overshoot Day – Global Footprint Network
世界・日本の現状と課題
「つくる責任つかう責任」に関連して、世界や日本はさまざまな課題を抱えています。現状から「なぜ目標12が必要なのか」を考えてみましょう。
先進国の食品ロス
「食品ロス」とは、本来食べられるはずの食品が廃棄されてしまうことです。先進国では食品ロスが深刻化しており、「資源の無駄遣い」「廃棄量の増加」「焼却処理による二酸化炭素の排出」など、環境への負荷が問題となっています。
農林水産省のデータによると、世界の食品廃棄量は年間約13億tです。世界には飢餓に苦しむ人が6億人以上いるのにもかかわらず、世界の食料生産量の約1/3が捨てられているのです。
2018年度の日本の食品廃棄量は600万tで、そのうち家庭系食品ロス量は276万t、事業系食品ロス量は324万tとなっています。
・家庭系食品ロス:作り過ぎ・食べ残し・賞味期限切れ・調理時の皮の剥き過ぎなど
・事業系食品ロス:売れ残り・返品・規格外品・飲食店での食べ残しなど
参考:
食品ロスの現状を知る:農林水産省
食品ロス量(平成30年度推計値)の公表:農林水産省
世界の飢餓人口 増加続く 2030年の「飢餓ゼロ」達成困難のおそれ ユニセフなど、国連5機関が新報告書
ファッションの環境負荷
衣類の製造には、多くの原材料や水が使われます。環境省のデータによると、1着の衣類を製造するのに必要な水の消費量は約2300l、排出される二酸化炭素量は約25.5kgです(2019年の服の国内供給量35.3億着に基づく)。製造過程では「化学物質による水質汚染」も深刻化しており、工場の多い地域では安全な飲み水の確保が難しくなっています。
安価なファストファッションの流行は、衣服のライフサイクルを縮め、廃棄量を増やしました。日本では、衣類の70%近くが可燃ゴミや不燃ゴミとして処分されており、処分の際に排出される二酸化炭素の量も問題になっています。
参考:サステナブルファッション―これからのファッションを持続可能に― |環境省
化石燃料への依存
目標12のターゲットには「資源の無駄となるような化石燃料の消費に対する補助金の仕組みを見直すこと(12.c)」が盛り込まれています。
日本を始めとする多くの国々は、石油や石炭などの化石燃料に依存しています。また、今後は新興国のエネルギー需要が増加する見込みです。
このまま消費量が増加すれば、「資源の枯渇」と「温室効果ガスによる大気汚染」という二つの大きな課題に直面するでしょう。EUでは、汚染度の高い化石燃料が補助金の対象となっていることを受け、化石燃料に関する補助金の段階的廃止を検討しています。
目標達成に向けた国・企業の取り組み事例
日本は食品や衣類の大部分を海外からの輸入でまかなっているにもかかわらず、多くのロスを排出し、資源の無駄遣いをしています。目標12を達成するには、国や企業が主体となって取り組みを進める必要があるでしょう。
食品ロス削減推進法の施行
日本政府は、国全体で食品ロスを削減するため、2019年10月から「食品ロスの削減の推進に関する法律(以下、食品ロス削減推進法)」を施行しました。国・地方公共団体の責務を明らかにし、食品ロス削減を積極的に推進していくことが狙いです。
食品ロス削減推進法では、毎年10月を「食品ロス削減月間」と定め、各省や自治体などにその趣旨にふさわしい事業を行うことを求めています。以下は取り組みの一例です。
・食品ロス削減月間の啓発ポスターを作成する
・賞味期限を年月または日で表示して売れ残りを減らす
・雑誌で食品ロス削減の特集を組む
・食材を無駄にしないレシピを紹介する
学校給食の廃棄率を削減
食品ロスは「学校給食」でも発生しています。生徒の食べ残しの他、給食調理における「可食部の過剰除去」も改善すべき問題です。
学校給食調理業務を行う「葉隠勇進(はがくれゆうしん)株式会社」では、廃棄量を減らすため、下処理の際の可食部を増やす工夫を取り入れました。じゃがいもの皮をスプーンで除去すると、廃棄量は20%から16%に減少します。無駄のない下処理の方法によって廃棄量が大きく下がった結果、配食量アップにつながりました。
小学校では特別授業を実施し、給食を残さず食べることの大切さや、食品ロス削減に関する自社の取り組みを伝えています。
参考:【SDGsの取り組み】学校給食から食品ロス削減! | 学校給食の受託会社【葉隠勇進】
地球環境に配慮したものづくり
「シャボン玉石けん株式会社」は「健康な体ときれいな水を守る」という企業理念の下、無添加石けんの製造を行っています。
1998年から排出物の減量化やエネルギー使用量の削減などに取り組み、石けん業界初の「ISO14001」を取得しました。ISO14001は環境マネジメントシステムの国際規格で、環境に配慮した経営を行う組織に付与されます。
石けんの原料である「パーム油」は、「持続可能なパーム油の生産」に取り組む農園からの取り寄せです。農園では環境保全の観点から、パーム残渣をボイラー燃料に再利用しています。
参考:SDGsへの取り組み|SDGs|無添加石けんの「シャボン玉石けん」
地球のために私たち個人ができること
世界で「ロス」が増え、地球の資源が食いつぶされているのは、消費者である私たちにも責任があります。一人一人が日々の習慣を少し変えるだけで、地球の未来は大きく変わるでしょう。
「てまえどり」を意識する
コンビニやスーパーなどの食料品を扱う店舗では、消費者に対して「てまえどり」を呼びかけています。これは消費者庁が主体となって推進している取り組みで、てまえどりとは、陳列棚の手前にある商品を先に取る購買行動です。
通常、陳列棚の手前には「販売期限が短いもの」が並んでいます。「販売期限が迫ったもの」や「値引きシールが貼られたもの」を積極的に購入すれば、「消費期限切れ」で廃棄される商品は少なくなるでしょう。
多くの消費者は、製造日時が新しいものを選びたがります。購入してすぐに消費するのであれば、商品棚の奥から取るのは控えましょう。
参考:小売店舗で消費者に「てまえどり」を呼びかけます|消費者庁
プラスチック製品の使い捨てを減らす
ビニール袋・シャンプーの容器・ペットボトル・テイクアウト用の飲料カップなど、私たちの身の回りにはさまざまな「プラスチック製品」があります。プラスチックは「石油」が原料で、燃やすと二酸化炭素が発生します。
日本はプラスチック廃棄物(以下、廃プラ)のリサイクル処理をアジア諸国に依頼していましたが、2017年ごろから禁輸措置を取る国が増えてきており、日本の廃プラは行き場を失いつつあるのです。廃プラをこれ以上増やさないために、プラスチックの使い捨てを減らす努力をしましょう。一人一人がマイバッグやマイボトルを持参するだけでも、大きな効果が見込めます。
個々の責任ある選択が未来を変える
目標12は生産者はもちろん、消費者である私たちにも大きく関わる課題です。人類の資源消費は地球が年間で生み出す自然資源を上回っており、このままでは次世代の資源は枯渇してしまいます。食品ロスと飢餓が、同じ地球上で起きているのも大きな問題でしょう。
豊かで美しい地球を次世代に引き継ぐためにも、一人一人が日々の暮らしの中で無駄な消費を防ぐ必要があります。個々の選択が地球の未来を大きく変えることを忘れないようにしましょう。
構成・文/HugKum編集部