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海外では治療できるのに、日本では受けられない治療があるって本当!?
海外では国に認可されて使われている薬が、日本では未承認で使えないために困っている患者さんがいるなど、今、日本の医療が大きな壁にぶつかっているのを知っていますか? 原因のひとつに医療資源(医療に関わる人、医療施設や医薬品、財源)の不足があります。
大切な人がこの先も安心して医療を受けられるようにするために、子育て中のママ・パパたちにこそ、知っておいてもらいたいことがあるのです。
「ドラッグ・ラグ」「ドラッグ・ロス」とは?
海外で使われている治療薬が、日本で承認されて医療現場で使用できるようになるまでの時間差を「ドラッグ・ラグ」と言います。
また海外ですでに使われている治療薬が、日本では開発すらされない状況を「ドラッグ・ロス」と言います。
近年は、国内で承認されていない薬が増加傾向にあり、2020年の直近5年間での国内未承認薬は約72%に上りました。そのうち2年経っても日本での開発に至っていない薬は55%もあります(グラフ参照)。
なかには「既存の薬で十分だからでは?」と思うママ・パパもいるかもしれませんが、「ドラッグ・ラグ」「ドラッグ・ロス」は、日本の医療の質の低下や治療の選択肢が限られてしまうことにつながります。
小児がんの治療薬でアメリカでは認められているものが、日本では未承認で使えず、海外で治療を受けなければ、救えるはずの命が救えなくなるという問題が実際に発生しているのです。
医療の進歩で、新生児マススクリーニングの検査項目が増えている
一方で、少しずつですが進歩している医療分野もあります。
赤ちゃんが生まれると病院で、足のかかとから少量の採血を行い、先天性代謝異常などの病気を早期発見する「新生児マススクリーニング」を行います。
近年は、日本国内でも検査項目を増やしている自治体もあります。それは医療の進歩で早期発見・早期治療ができることがわかってきたためです。
早期発見・早期治療がカギとなる脊髄性筋萎縮症なども検査項目に
たとえば脊髄性筋萎縮症(Spinal Muscular Atrophy 以下SMA)もその1つです。SMAは、徐々に筋力が低下して日常の生活が困難になる難病です。治療薬が開発される以前は、生後6カ月までに発症した場合は、人工呼吸器などをつけなければ1歳6カ月ごろまでにはほとんどの子が亡くなってしまうとも言われていました。
しかし遺伝子治療などの治療薬の研究開発が進み、SMAは早期発見・早期治療をすれば、自分で歩いたりして、日常生活を送れる可能性がぐんと広がりました。
脊髄性筋萎縮症、重症複合免疫不全症も全国の自治体で公費検査導入へ
SMAの新生児マススクリーニングは現在、一部の自治体でしか受けられません。自己負担額の割合も自治体によって異なります。しかし2023年11月こども家庭庁は、SMAと生まれつき免疫細胞がうまく働かない重症複合免疫不全症(SCID)の2つの難病も公費で新生児マススクリーニングが受けられるようにする方針を固めました。
細胞医療や遺伝子治療の進歩で、白血病などは完治する道筋が
2000年代に入ってから、がんの治療は大きく前進しました。従来の抗がん剤は、正常な細胞までも攻撃していたのですが、2000年代に入ってからがん細胞だけを攻撃する「分子標的治療薬」が普及したことで、白血病などの血液のがんに対する新しい治療選択肢が増えました。
医療の進歩によって、これまで難しいと言われていた治療ができるようになっています。
そして近年、注目されているのが細胞医療や遺伝子治療をはじめとする最先端の治療法です。細胞医療や遺伝子治療は、病気の根本的な原因に直接アプローチする治療法で、1回~数回の治療で病状を大幅に改善でき、長期間効果を持続できる可能性があるため、世界中が注目しています。
医療も限りある大切な資源。新しい薬や治療法の研究開発を進めるために
昨今、日本は少子高齢化や医療費の増加などの社会課題に直面しており、医療資源(医療に関わるヒトやモノ、お金など)にも影響が出てきています。医療資源不足の問題がより深刻化すると、上段で記載した細胞医療や遺伝子治療をはじめとする最先端の治療法の研究開発にも影響を及ぼし、必要なときに現在の医療や新しい治療法を受けることが難しくなってしまうかもしれません。
日本の医療資源不足の問題は、今、真剣に考えなくてはいけない時期に来ているのです。
未来の医療のために、私たちができることとは?「医療のエコ活動」を行おう
実はその解決に向けて私たち一人ひとりができることがあります。それが「医療のエコ活動」です。医療資源も環境資源と同じように限りある資源であり、それをみんなで大切に使うことで、治療法がなく困っている患者さんへ、将来にわたって新しい薬や治療法を届けられる社会を目指した活動です。難しいことではなく、一人ひとりの健康への意識を高めることで、本当に必要な人へと医療資源を回すことができます。
たとえば--
・早起き・早寝をして規則正しい生活を送る
・好き嫌いを減らして、3食しっかり食べる
・歯磨きをしっかりする
・運動習慣を取り入れる
・病気になって薬を処方されたときは、正しく服用してきちんと治す
・具合が悪いときは、無理して登園などはさせない
・外から帰ってきたら、手洗い、うがいを習慣にする
・インフルエンザなどの感染症が流行っているときは、マスク着用や人混みを避けるなどの感染対策を行う
こうした一人ひとりの小さな活動の積み重ねが、医療機関への受診頻度や受ける医療サービスの軽減につながります。その結果として医療資源への負担を減らすことができ、日本が直面する医療資源の不足という課題の解決にもつながるのです。 子どもたちや大切な人が、安心して必要な医療を受けられる未来を守るために、できることから始めてみませんか。
医療について学ぶ音楽絵本コンサート「ポーリーとナーミーのまほうのステッキ」
「子どもに医療の問題を話すのって難しそう」と思うママ・パパもいると思います。一見難しそうなお話を、子どもでも分かりやすく楽しく学ぶことができる音楽絵本コンサートがあります。それが、一般社団法人Miraiallかわさき、株式会社カリヨン・カンパニー主催の『音楽絵本コンサート「ポーリーとナーミーのまほうのステッキ」』です。Innovation for NEW HOPE プロジェクト(下段リンク参照)の運営会社であるアステラス製薬もこの活動に協賛しました。この絵本は、ふたごのポーリーとナーミーが、お薬が出るまほうのステッキでたくさんの人を助けているうちに、ステッキを使いすぎてしまい、本当に必要なときに新しい薬を生み出せなくなってしまうことに気付く物語です。子どもも大人も一緒に楽しみながら、健康や医療、お薬の大切さをわかりやすく学ぶことができます。
『音楽絵本コンサート「ポーリーとナーミーのまほうのステッキ」』の様子は、こちらから!
『ポーリーとナーミーのまほうのステッキ』コンサート実施報告 – Miraiallかわさき (miraiall-kawasaki.com)
音楽絵本コンサート「ポーリーとナーミーのまほうのステッキ」に参加してみて
「薬は無限にあって、特に子どもに関しては無料でもらえるという感覚がありました。朝ごはんは米と味噌汁と納豆を中心に健康を意識してみました。すると重症だった生理痛が食事を変えた事で改善されて驚いています。痛み止めの使用頻度も減りました」(多田さん、お子さん6歳・2歳)
「元気でいることに敏感になりました。たまたま祖母が朝ごはんを食べてない事があり、子どもが『朝ごはん食べないと病気になっちゃうよ!』と注意していて驚きました。また『風邪ひかないようにご飯全部食べる!』と薬に頼らず元気でいることがいかに大切かを感じ取ってくれた様に思います」(坂田さん、お子さん4歳・1歳)
「我が家では娘が自分の周りに人形を並べ、コンサートで見たように絵本を見せながら歌ったりしています。絵本が大好きになってくれて嬉しいと思っていたら、先日風邪を引いた時に薬の心配をしていました。しっかり内容も伝わっているんだなと、さらに嬉しくなりました」(丸山さん、お子さん6歳)
一人ひとりの日々の過ごし方で、日本の医療の未来が開ける!
日本の医療の問題というと、社会保障費のことが注目されがちですが、実はこうした問題もあるのです。
日本の未来の医療を守るには一人ひとりの心がけが大切です。自分自身のためにも、子どもたちのためにも、大切な人のためにも--改めて、この問題について考えてみませんか。
協力/Innovation for NEW HOPE “Innovation for NEW HOPE 希望があふれる世界をみんなでつくる” (innovation-for-newhope.com)
取材・構成/麻生珠恵 イラスト/タソ