現在ロンドンで3人の子ども(9歳,9歳,6歳)を育てるライターの浅見実花さん。東京とロンドンの異なる育児環境で子育ての「なぜ?」にぶつかってきた彼女にとって、大切なことは日々のふとした瞬間にあるのだそうです。まずはちょっと立ち止まって、自分なりに考えること。心の声に耳を澄ましてあげること。そういう「ちょっと」をやめないこと。この連載では、そうしてすくい取られたロンドンでの気づきや発見、日本とはまた別の視点やアプローチについて、浅見さんがざっくばらんに&真心を込めて綴っていきます。
第8回は内向的なタイプについてのお話。みなさんの周りにも内向的な大人や子どもはいませんか?
「休み時間はどんなふうに過ごしたの?」
6歳の末っ子と話していたときのことです。
「今日の休み時間はどんなふうに過ごしたの?」
私が息子に尋ねると、
「イマジン」という答えが返ってきました。
「イマジン(想像)?」
私が思わず聞き返すと、
「そうだよ、それが?」という反応。それが何か問題でも?と言いたげなニュアンスです。
そういうことが時々ありました。お昼休みにひとりベンチへ腰をかけ、頭の中で想像しながら何分間もやり過ごしていると言うのです。
「へえ」と思いました。ベンチに座ってひとりイマジン。お昼休みの過ごし方としては相当に地味だけど、自分の想像力だけで暇な時間を過ごせるなんて、ある意味幸せなことかもしれないな。何しろ道具は要らないし、どこかに行く必要も、だれかと時間を合わせる必要もありません。頭の中は完全に自由という。
いっぽうで、この返答にギクリとしたのは父親です。
「大丈夫かな……彼、いじめられてないよね?」
いじめ? 私は一瞬ポカンとしました。末っ子はとくに友達に困っている様子はありません。先生との面談でも交友関係に問題なし。そして何より大事なことに、彼は毎日機嫌よく学校に通っている。
「大丈夫。全然問題ないと思うよ」
内向的ってそんなにネガティブ?
それにしても、どうして心配になるんだろう? ひとりでイマジンすることが。
夫の思考をたどった私は「あ、そうか」と思いました。たしかに彼が一瞬不安になるのも、無理のないことなのかもしれません。ひとりイマジン、これっていわゆる内向的なイメージです。そして内向的であるというのは、ややもするとネガティブに捉えられる。おそらく多くの人にとって、対外的にいつも明るく振る舞えるとか、臆することなく他人と仲良く遊べるだとか、そういう外向的な子どものほうがポジティブに映るでしょう。大人だって同じことかもしれません。ひとりで静かに考え込んでいるような内向的なタイプより、活気があって口を開けば言葉がついて出てくるような外向的タイプのほうが、大勢の注目を集めやすい。
つまり実際「内向的でいるよりも外向的でいるほうが望ましい」みたいな話になってきます。まわりをぐるりと見回しても、親たちの会話の端々やふとした態度の隙間から、そんなニュアンスが感じられる。これは外向的な親たちからはなおのこと。あえて言葉にしてみると、こんな具合になるでしょうか。
「だってそうでしょ、社会の現実を見てごらん? 実践的に社会で生き抜くためには、外向性を磨かなくちゃ。内向的なばかりでは損をすることがあるじゃない?」
内向型人間の秘めたる力
こうした世間の「外向的>内向的」という傾倒にたいし、堂々と物申したのがアメリカの作家スーザン・ケインさんです。もともとウォール街の弁護士だったスーザンさんは仕事を辞め、7年間を費やして全米ベストセラー『内向型人間の時代 – 社会を変える静かな人の力(Quiet : The Power of Introverts in a World That Can’t Stop Talking)』を書き上げました。
この本では、世界的にも飛び抜けて外向性を讃えがちなアメリカ社会という場所で、内向的人間がこれまでいかに低く見積もられてきたのかということ、そして内向型の人間に秘められた力について前向きに書かれています。
彼女はここでさまざまな研究結果やインタビューを紹介しているのですが、それがまた身も蓋もなくて面白い。たとえばこんな具合です:
「集団の力学では、私たちはよくしゃべる人のほうが物静かな人よりも頭がいいと認識する。雄弁さが洞察の深さと関係していればいいのだが、その相関関係はゼロである」
「テレビで解説する専門家、つまり限られた情報をもとに延々と喋ることで生計を立てているような人びとが、経済や政治の予測を的中させる確率は、素人が予測を的中させる確率よりも低いことが実験から分かっている。その上もっとも的中率の低いのは、もっとも有名で自信満々の専門家だった」
「質問が集中砲火する会議を切り抜けられるのは、最高の名案を持っている人ではない。プレゼンテーションが最高にうまい人だ」
「重役たちからカリスマ的だとみなされている人物は、そうでない人物と比較して給料は高いものの、経営手腕は優れていないことが発見された」
「集団でのブレイン・ストーミングは、結束をつくるためには有効だが、創造性や効率性を求めるのなら価値がないと分かっている。やる気と能力のある人間にじっくり単独で作業させるほうが有効である」
「発明家やエンジニアの大半は、内気で自分の世界に生きている。彼らはアーティストに近い。実際とくに優れた人たちはアーティストそのものだ。アーティストは単独で働くのが一番いい。ひとりなら、マーケティング委員会だのなんだのに意見を差し込まれることなく、自分の発明品の設計をコントロールできる。本当に革新的なものが委員会によって発明されることはないだろう」
「内向型は、持続力や粘り強さ、思いがけない危険を避ける明敏さを持っている。財産や社会的地位といった表面的なものに対する執着はあまりない。それどころか、最大の目標は自分の持てる力を最大限に利用することだったりする」……
スーザンさんは、同じ人でも外向性と内向性の両方の要素を持ち合わせる場合があるとしながらも、これまでの現代社会、とりわけ米国社会において公平に評価されてこなかった内向型の人間がみずからの能力を最大限発揮するにはどうしたらよいかということ、そしてまわりの人びとが彼らにしてやれることまで踏み込んで書いています。
内向的な子どもに対して大人がしてやれること
では、自分のまわりに内向的な子どもがいたら、どんなふうにサポートしてやれるのでしょう。
まず、内向的には彼らなりのやり方があるのだと理解することから始まるのだと、スーザンさんは書いています。
内向型は初めての体験をするとき、新たな刺激をより敏感に感じ取るため、大きく動揺する傾向にある。だから新しい環境にはゆっくりと慣らしてやろう。子どもにとっての限界が納得できなくても、大人はそれを尊重すること。子どもの感情は正常で自然なことだと知らせ、なにも恐れる必要はないのだと理解させてあげること。そして急かさず、子どものペースに任せてみよう。感情的に脅かされると、子どもは学ぶのをやめてしまう。
内向型のわが子が学校の人気者でなくても心配しないように。1人か2人のしっかりした友情は、子どもの感情的・社会的発育にとって重要だが、人気者である必要はないのだから。自分の期待を押し付けず、満足できる人生を送るためにはいろいろな道があるのだと忘れないようにしよう。……
それこそ相手の身になって、つまり相手の人生のパースペクティブ(視点や姿勢)に立って、「イマジン」する力が必要なのかもしれません。
というわけで。わが家の小さなメンバーにも「内向型」がいるようですが、私もひとりの親として、内向型を温かく見守ってやりたいと思います。実際どこまで力になれるか正直よく分からないけど、せめて自分の意志として、内向性もポジティブに捉えていたいな。
最後にスーザンさんの言葉を引用して終わります:
「見かけに騙されないように、そう心に刻んでおこう。次にあなたが落ち着いた表情で静かに話す誰かに出会ったら、こんなふうに考えてみてほしい。彼女はいま心の中で方程式を解いているか、詩を創作しているか、あるいは帽子をデザインしているのかもしれない、と。つまりその人は、静かなパワーを操っているのかもしれないのだ」
浅見実花(あさみ みか)
大学卒業後、広告代理店に勤務。のちロンドンへ渡る。マーケティング&ファイナンス修士。著書に『子どもはイギリスで育てたい!7つの理由』(祥伝社)。現在、在英9年目。3児の母(9歳、9歳、6歳)。ウェブサイト→ https://www.asami-mika.com/ インスタ→ https://www.instagram.com/asami.asami.m/