冬になると増える子供のやけど!予防するには子どもの手が届く範囲を把握すること【Safe Kids Japn】

子供のやけどを予防するためにできることは?

すっかり秋も深まり、紅葉の美しい季節になりました。暖房器具を使ったり、温かい飲み物や食べ物をいただく機会も増えてきます。

熱い飲み物がこぼれて子供にかかってしまったり、子供がヒーターにさわってやけどをしたりすることが多いのもこの季節です。子供、特に乳幼児の皮膚は薄いため、赤くなったり、水ぶくれになったりするだけでなく、跡が残るような重症となることも。子供達のやけどを予防するためにはどうしたらよいでしょうか。

イラスト 久保田 修康

 

(1)子供達はこんな製品でやけどしています

それぞれの製品に応じた予防策を立てましょう。

◆食べ物、飲み物

・子供の手の届かないところに置く

※「手の届かないところ」については⑵で説明します

・テーブルクロスやテーブルランナーは使わない、子供のいる家庭にプレゼントしない

(子供がクロスを引っ張り、クロスの上に乗っているポットや鍋などが倒れて中身が子供にかかることがあります)

◆調理器具やヒーター

・子供が熱源に近寄れないよう、キッチンゲートなどを使う

・蒸気の出ないタイプの炊飯器や電気ポット、倒れてもお湯がこぼれないタイプの電気ケトルを使う

参考:蒸気レスとく子さんシリーズ蒸気レスIHジャー炊飯器

◆花火

・花火やマッチ、ライターをさわるのはおとなだけ

・火のついた花火を子供に持たせるときは、おとなが花火に手を添える

・浴衣のような袖のひらひらした服は着せない

・ビーチサンダルのように足の甲が出ている靴は履かせない

◆アイロン

・子供が寝ている時に使う

・起きている時に使う場合は、子供をベビーサークルや柵を上げた状態のベビーベッドに入れておく

参照:子どものやけどを予防するために

(2)子供の「手の届かないところ」とは?

よく「危険なものは子供の手の届かないところに置きましょう」と言われます。では、「子供の手の届かないところ」とは具体的にどのようなところでしょうか?

目安は1歳児90㎝、2歳児110㎝、3歳児120㎝

下のイラストは、台となるもの(テーブルや棚など)の高さと子供の腕の長さとの関係を示したものです。台の高さと子供の腕の長さを足した数字を年齢別に示しています。1歳児は90㎝、2歳児は110㎝、3歳児になると120㎝のところまで届くという「目安」です。ただしこれはあくまでも「目安」なので、ご自宅のテーブルやテレビ台、カウンターなどの高さとお子さんの腕の長さを測り、どこまでなら届くかを確認してください。

また、子供は、踏み台になるものを持ってきたり、たんすの引き出しを階段にして高いところに登ることがあります。それを想定した上で、それぞれのご家庭の「手の届かないところ」を見つけてください。「手の届かないところ」を見つけ、そこに子供の健康を害するもの、たとえば薬、ボタン型電池、洗剤、アルコール飲料などを置いておくようにすると、誤飲予防にもなります。

 

これは今年5月、徳島県で開催された『次世代育成支援イベント おぎゃっと21』というイベント会場に置かれていた机です。机の高さに奥行きを足し、90㎝、110㎝、120㎝の位置にテープを貼って、そこにミニカーを置き、子供の手が届くかどうか実験をしています。

 

わたしのSafe Kids ストーリー 〜「子供の傷害予防」に取り組む人をご紹介します〜

今回ご登場いただいたのは、Safe Kids Japan理事で、国立研究開発法人 産業技術総合研究所 人工知能研究センター(以下、産総研)主任研究員の北村 光司さんです。北村さんは、8月に登場いただいた西田 佳史さんと同じチームで研究をされています。

北村 光司さん

Safe Kids Japan :北村さんは学生時代から「子供の傷害予防」に関心を持たれていた、と聞きました。

 

北村 :学生時代に明確に「子供の傷害予防を研究したい」と考えていたわけではありません。大学での専攻は機械工学でしたが、機械を作ることより、技術を使って、社会的に弱い立場にいる人の支援をしたいという気持ちはありました。祖父が医者をしていて、時々「患者さんがこんなことで困っているんだよ」「看護師さんが大変だから何とか助けてあげたいんだ」というような話を聞いたりしていましたので、高齢者支援をするロボットの研究をしてみたいという思いはありました。

しかし当時はロボット技術がまだそのような応用に耐えられるほど成熟していなかったため、大学の先生に相談をして、学部の学生の時に産総研を紹介してもらいました。産総研では西田さん達が生活を対象にデータを取るための技術の研究をしており、ちょうど実際の課題解決に応用していこうとしているタイミングでした。

大学院に進んでから、もう少し明確に、社会課題の解決に生かせないか、とテーマを探していて、その中の一つが「子供もの事故」でした。西田さんも言っていましたが、この分野は科学的な分析がほとんどされていない、と気づいたことも研究テーマに取り上げた理由です。

 

Safe Kids Japan :北村さんは子供の事故予防の分野でさまざまな実験をされていますね。

 

北村 :はい、実験も数多く行なっていますが、子供の事故のデータ、たとえば医療機関や日本スポーツ振興センターからデータを提供してもらい、そのデータを分析するための手法となるソフトを作っている、というのが仕事の中心かもしれません。

 

Safe Kids Japan :データを分析するためのソフト、ですか?

 

北村 :子供の事故を予防するためにはデータが必要ですが、膨大なデータの中から何を見つけるか、何に着目して何を抽出するか、がとても大切です。

実験では、たとえば製品の実験ですと、複数のメーカーのボタン電池を用意して、誤飲したときにどのくらい危険かを測ったり、どんなパッケージだと子供が開けやすいのか、という実験をしたり、ベランダの転落では保育園の子ども達に協力してもらい、どんな柵だと登れてしまうのかを測って、安全なベランダの手すりの高さや形状を探る、という実験をしました。

今回の記事では「やけど」を取り上げていて、電気ポットの事故についても触れられていますが、「電気ポットでやけどがたくさん起きています」という情報だけでは具体的な予防につなげることはできません。データを分析することによって、電気ポットの事故が何件起きているのか、どのような状況で起きているのか、がわかる。そうして初めて予防につながる対策が見えてくるのです。

データを分析すると、子供がポットのコードを引っ張って倒れてお湯がこぼれた、とか、子供がポットのふたを開けて蒸気でやけどをした、などのパターンが見えてきます。ふたを開けた子供の年齢や手のサイズなどがわかれば、どのようなふたにすれば開けにくくなるか、を検討することができます。製品をどのように改良すれば予防ができるのか、が見えてくるのです。

 

Safe Kids Japan :北村さんは子供の傷害予防活動における課題はどのようなことと考えておられるでしょうか?

 

北村 :ひとつは社会の考え方が課題だと思います。子供の重大事故が起きて、それを伝えるウェブのニュースに寄せられたコメントを見ていると、「保護者が悪い」「見ていなかったせいだ」という意見が多く、子供の事故が個人の問題として扱われていることがわかります。そうではなく、子供の問題は社会全体の問題であり、日本にとって大事な問題である、という考え方がなかなか広がっていかないことが課題であると考えています。

もうひとつは事故データが不足していることです。データの分析をしているという話をしましたが、データの量が圧倒的に少ないですし、データの質、たとえば事故と生活の環境、場面との関係を示すデータはほとんどありません。事故に関連した製品をどこに置いてどうやって使っているかよくわからない。それがわからないとなぜ事故が起きたのかを正確に知ることはできません。

IoT(物のインターネット化)やAI(人工知能)の発展により、生活の中のデータが取れるようになってきているので、それらが普及することで予防に役立つデータが取得できるかもしれないという期待は持っています。「物」がどこに置かれているか、この製品とあの製品がどのようなセットで使われているか、などを知ることで、より具体的な予防策が取れるのではないかと考えています。

11月にタイ・バンコクで開催されたSafety 2018でポスターセッションに臨む北村さん

 

Safe Kids Japan :最後に、10年後にはこんな社会になっていてほしい、10年後のご自身はこうありたい、といったあたりをお聞かせください。

 

北村 :子供を安全に健康に育てるのは社会全体の務めだと思いますが、ひとりの市民としてそのために何をすれば良いのか、それを学ぶ機会が今はほとんどありません。なぜ予防が大事か、についても学ぶ機会はないですね。10年後には予防の考え方を学校教育の中で学べるようになっていたら良いのではないかと思います。

そして、事故データを集めることが当たり前の社会になってほしいですね。諸外国を見ても、アメリカはCDC(疾病対策センター)がデータを集めてそれを元に安全基準を作ったりしていますが、日本ではまだ社会の仕組みにまではなっていません。

とは言え、子供の傷害予防については少しずつ仕組みが見えてきたので、今後は子供だけでなく、いわゆる「弱者」と言われる人、高齢の方や障がいをお持ちの方にも予防の取り組みが広がっていくといいのでは、と思います。そしてその広がりに自分の力を生かせると、なお嬉しいですね。

今、産総研にはインターンの学生さん達が来ています。彼らには「社会のために技術を生かす」という観点でこの先も研究を続けてほしいと思っています。高機能、高性能を目指すことはもちろん重要ですが、それが生活に根付いているか、社会のために役立っているか、を常に意識する。私自身もそういう研究者でありたいですし、若い学生さん達にもその意識を持ち続けてほしいと願っています。

 

Safe Kids Japan :ありがとうございました。

 

記事監修

Safe Kids Japan|

事故による子どもの傷害を予防することを目的として活動しているNPO法人。Safe Kids Worldwideや国立成育医療研究センター、産業技術総合研究所などと連携して、子どもの傷害予防に関する様々な活動を行う。

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