サッカーゴールの転倒が重大事故に!子供を守ろう!【Safe Kids Japan】

イラスト 久保田 修康

サッカーゴール等の転倒によって重大事故が起きています

子供達に大人気のサッカー。今日も大勢の子供たちが、学校やスポーツ公園などで元気にボールを蹴っています。

しかしサッカーゴールが転倒してその下敷きになり、子供たちが大きな傷害(けが)を負っていることをご存じですか?

こんな事故が起きています

産業技術総合研究所が日本スポーツ振興センターが保有する災害共済給付データを用いて調べたところ、2014年度に発生した「屋外用ゴール」に関する事故は2,554件登録されており、その中の「サッカーゴール」に関する負傷事例は1,921件(75.3%)だったということです。

 

具体的には、

  • 体育の授業中に、グラウンドでサッカーの試合のキーパーをしていたところ、シュートがゴール枠から外れたことに喜び、サッカーゴールにぶらさがった。その後、 ゴールの下敷きになる形で倒れ、 歯をぶつけ歯牙が脱落した。

 

  • 球技大会でサッカーをおこなっていた際、強風によりゴールが傾き、キーパーをしていた生徒の首にあたった

 

  • 昼食時休憩時間、運動場の端で、鬼ごっこをして遊んでいた。他の児童数人が、ミニサッカーゴールのネットをひっぱりサッカーゴールが倒れた。たまたま通りかかった本児の右顔面にサッカーゴールがあたり転倒した。その際に頭部を打撲した。

といった事故が起きています。

 

いずれも「ゴールが倒れる」または「傾く」ことにより、事故が起きて傷害が発生しています。

◆ゴールが倒れるとどのくらいの力がかかるのか

 では実際にゴールが倒れると、どれくらいの力がかかるのでしょうか?このイラストは子供達にも理解しやすいよう、ゴール転倒時にかかる力を「人間の骨が折れる力」と比較したものです。人間の頭蓋骨が折れる力は300kgf(300重量キログラム)と言われていますが、アルミ製サッカーゴールが倒れるとその約6倍の1,800kgf、鉄製ゴールの場合はなんと約10倍の3,000kgfもの力がかかるのです。

◆ゴール転倒による重大な傷害を予防するために

それでは、ゴール転倒による重大な事故を予防するためにはどうしたらよいのでしょうか?

1:ぶら下がらない、揺らさない

ゴールにぶら下がったり、ネットを揺らしたりしないことです。有名選手がゴールを決めてゴールにぶら下がって喜ぶシーンをテレビなどで見ることがありますが、公式戦で使用されているゴールはポールを地中深くに埋め込んでいる「埋め込み式」で、ぶら下がっても倒れてくることはまずありませんが、学校などで多く使用されている「移動式」は、しっかりと固定しないと倒れてきます。

2:杭で固定する または、100kg以上のおもりで固定する

子供に「ぶら下がってはいけません」と言っても、跳びつきたくなる・揺らしたくなる欲求があるので、たとえ子供が跳びついたとしても、ゴールが転倒しにくいようにします。ぶら下がりだけでなく、突風(瞬間最大風速 30m/sで、平均風速だと15~20m/s)でも100kgfの力がかかります。簡単に固定できる製品(おもりや杭)が開発・販売されていますので、こういった製品を利用する必要があります。

3:安全な簡易・軽量ゴールの開発・安全基準づくり

現在使用されているゴールは必要以上に強固ではないでしょうか。軽量で簡易な練習用ゴールの活用が望まれます。練習用としては軽い素材で十分ですし、形状の工夫(奥行をゴール高さよりも長くするなど)によっても、転倒しにくい効果を出すことができます。ちなみに、傷害リスクが低いゴール重量は、海外文献では18kg以下とされています。

 

◆1月13日は「サッカーゴール等固定チェックの日」

Safe Kids Japanでは、サッカーやフットサル、ハンドボール等の競技で使用するゴールの転倒による重大事故を予防するため、毎年1月13日を「サッカーゴール等固定チェックの日」と定め、全国の学校や公園、スポーツ施設等において、ゴールが固定されているかチェックしていただくよう広報しています。

 

1月13日と定める理由は、2017年福岡県大川市内の小学校において、また2004年1月13日に静岡県静岡市内の中学校において、ゴール転倒により児童・生徒が亡くなられたことによります。

詳しくはSafe Kids Japanの特設ページをご覧ください。実験動画や、リーフレット等のプレゼント情報もあります。

 

わたしのSafe Kids ストーリー 〜「子どもの傷害予防」に取り組む人をご紹介します〜

 今回お話を伺ったのは、株式会社ルイ高 営業管理部の岩藤 浩司さんです。

Safe Kids Japan(以下、SKJ):岩藤さんは背が高く、いつも日焼けされていて、いかにもスポーツマンという感じです。

岩藤:子供の頃からずっとサッカーをやっていました。今もボランティアで少年サッカーチームの指導者として活動しています。

SKJなるほど、ずっとスポーツをされているのですね。チームには何人くらいのメンバーが在籍しているのですか?

岩藤:そうですね、メンバーは全部で60〜70人でしょうか。ほとんどが同じ小学校の児童です。男子が多く、女子は今のところ3人と少数ですが、共に大会に向けて練習しています。

SKJルイ高社ではどのようなお仕事をされているのでしょうか?

岩藤:ルイ高は、主に屋外スポーツで使われる器具を開発・販売している会社です。その中で、主にマーケティングや広報など、営業活動の支援をしています。

岩藤 浩司さん

 

SKJルイ高さんは、2017年に「サッカーゴール転倒防止固定装置」でキッズデザイン賞を受賞されました。この製品を開発しようと思われたきっかけはどのようなことだったのでしょう?

岩藤:この固定具そのものは2002年から販売しているのですが、ゴールに関わる転倒事故が起きていることを度々耳にし、メーカーとしてできることはないかと考えていました。学校などの現場で指導者の方の声を聞くと、ゴールを動かして使うことが多いのですね、実際のところ。たとえば運動会の後などに動かした後、固定されていない。通常は杭やおもりで固定するわけですが、その作業も大変。だから固定していない、という話を聞いて、考えたのがこの製品です。

SKJSafe Kids Japanでも今ウェブ上でアンケートを行なっていて、ゴールを固定していない理由についてもお尋ねしているのですが、やはり移動後の固定はなかなか……とおっしゃる方もいらっしゃいます。ルイ高さんの固定具は「杭を元々地面に埋めておき、そこにゴールを持ってきてチェーンで固定する」という逆転の発想がおもしろいですね。

岩藤:ありがとうございます。実は製品の開発自体にはさほど時間はかからなかったのですが、実際にグラウンドに器具を埋めて引き抜き荷重を測定したり、風速の違いによる転倒荷重を計算したり、安全のための数字的な裏付けをとることを心掛けました。また、コートの表層には土や芝生、アスファルトといろいろな種類がありまして、それぞれの表層で使える器具を作るのはちょっと苦労しました。

サッカーゴール転倒防止固定装置

 

SKJこの固定具さえあれば「ゴール固定」の課題はたちまち解決するのではないかと思います。キッズデザイン賞受賞後、出荷数がかなり伸びたのではないですか?

 

岩藤:ところが爆発的には売れたかというと、実はそういうわけでもないのです。ルイ高では毎年春先に全国の小・中・高校約3万5千校に商品カタログを送っていまして、そのカタログの中に固定具のことも掲載しているのですが、反応は今ひとつといったところです。

 

SKJゴール固定の重要性や転倒時の危険性についてあまり知られていないということもあるでしょうか?

 

岩藤:それもあるかもしれません。そこで2017年には、ゴールの転倒予防を促すためのステッカーをカタログに同封しています。対象は小学校だけなのですが、このステッカーをゴールなどに貼ってもらって、子供達にもゴール転倒の危険について知ってもらいたいと考えています。

サッカーゴール転倒防止を呼びかけるステッカー

 

SKJさて、ここからは岩藤さんご自身についてお尋ねします。なぜルイ高社に入社しようと思われたのか、その背景などについてお聞かせいただけますか?

 

岩藤:冒頭でもお話ししたように、子供の頃からずっとサッカーをやっていましたが、大学卒業後の新卒時には、サッカーとは関係のない仕事に就きました。しかし、サッカーに関わりたい気持ち、スポーツを支える仕事に就きたいという気持ちはずっと持っていました。転職を決意した時にルイ高を志望したのは、この会社が特に「安全」や「品質」といったことにこだわっているところに魅力を感じたからです。

かつてサッカーゴールの多くは鉄製でしたが、今はアルミ製に移行しています。鉄製ゴールは重く、ポールの形も四角いので、倒れた時に大きな怪我をする可能性があります。一方、アルミ製ゴールの重さは鉄製の約半分なので、転倒時はもちろん、移動中の事故による怪我の程度も軽減されます。ポールの形も丸型なので、裂傷の可能性も低くなります。ルイ高ではアルミ製への移行を20年前から進めています。アルミ製は価格が鉄製の倍くらいだったのですが、そのような中、なるべく価格をおさえたアルミ製ゴールの開発に努めてきたところです。

 

SKJルイ高さんの熱意やご経験が製品開発に生かされていることがわかります。しかしゴール等の転倒事故は相変わらず発生しています。この現状について、どのようなことが課題であるとお考えでしょうか?

 

岩藤:先ほどの繰り返しになりますが、やはり「ゴールにぶら下がると倒れてきて重大な事故になる」ことを知らない指導者や保護者の方が多いことが、まず課題として挙げられると思います。このことさえ知っていれば、子供達にも「ぶら下がったら倒れてくるよ。ゴールは重いから、身体の上に倒れてきたら骨が折れてしまったり、場合によっては死んでしまうかもしれないんだよ」ということを教えることができますし、ゴールをしっかり固定しようと思われるのではないでしょうか。

実は公式試合では、ゴールは「埋め込み式」しか認められていません。学校などで多く使用されている「移動式」のゴールは、公式戦では使用できないのです。

 

SKJそれは知りませんでした。ゴールを決めた選手が喜びのあまりゴールにぶら下がるシーンをテレビなどで見ることがあり、おそらく子供達はその影響を受けてゴールにぶら下がるのではないか、と思っていましたが、そもそもゴールの設置方法が違うのですね。

 

岩藤:はい、公式戦で使用されるゴールは地中深く埋め込まれていますので、たとえぶら下がったとしてもゴールが倒れてくることはまずないのです。

 

SKJそのことを多くの方に知っていただきたいですね。さて、ここからは未来の話になるのですが、岩藤さんがお考えになる「10年後の社会」「10年後の自分」についてお聞かせください。

 

岩藤:みなさんご存じのように、2019年にはラグビーのワールドカップが、2020年にはオリンピックが、そして2021年ワールドマスターズゲームズ2021関西が日本で開催されます。この3年間は「ゴールデン・スポーツイヤーズ」と呼ばれ、日本のスポーツ界にとって大きなチャンスであり、転機でもあると言われています。今、子供達のスポーツ離れや体力の低下が問題視されていますが、この機会にスポーツへの興味、そしてスポーツ実施率が高まって、国民の、特に子供達のスポーツ離れが解消されるといいな、と思っています。

自分自身は、特に明確なビジョンのようなものはないのですが、10年後も子供と一緒にサッカーができるといいな、ボールを蹴っていられるといいな、と思います。簡単なことのようですが、そのためには世界が平和でなくてはなりませんし、自分自身も健康でいなくてはなりません。また、今回はゴールの危険性についてお話しましたが、スポーツを楽しむ人が正しい知識を持って、安全にスポーツを楽しむ社会になっていてほしい、そしてそのような社会の実現に自分自身も関わっていたい、そんなことも願っています。

 

SKJ:ありがとうございました。

 

記事監修

Safe Kids Japan|

事故による子どもの傷害を予防することを目的として活動しているNPO法人。Safe Kids Worldwideや国立成育医療研究センター、産業技術総合研究所などと連携して、子どもの傷害予防に関する様々な活動を行う。

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