対面授業とオンライン授業。小学校教育の今後と課題は?

オンライン授業の普及により、教室に集まって行う従来の授業形態は「対面授業」と呼ばれるようになりました。私たちが見慣れた対面授業は、どのように変わっていくのでしょうか。小学校教育の現状と、今後の課題について考えます。

小学校の対面授業、現状と課題は?

インターネットの普及や新型コロナウイルス感染症対策として実施された一斉休校をきっかけに、小学校の授業体制の見直しが進んでいます。

従来の対面授業が抱えていた問題点と、オンライン授業で明らかになった課題を見ていきましょう。

感染症などの流行に弱い「対面授業」

対面授業では数十人が一つの教室に集まるため、感染症が一気に蔓延する恐れがあります。新型コロナウイルスの流行以前から、対面授業は感染症に弱いとの指摘がありました。

このため、指定の感染症にかかった児童・生徒は出席停止となり、完治するまで登校できません。

インフルエンザが流行する冬には、感染者が一定の人数を超えてしまい、学級や学校が閉鎖になるケースもよくあります。

感染症だけでなく、地震や洪水などの自然災害時にも同じことが起こるでしょう。非常時に学びが止まってしまうのは、対面授業の大きな弱点といえます。

学びの機会をいかに行き渡らせるかが課題

残念ながら、感染症や災害がなくなることは今後もほぼ期待できません。そのため、いつ学校が閉鎖されても子どもたちの学びを止めない体制作りが急がれます。

現在は、文部科学省が主体となり、オンライン授業の進め方やカリキュラムの遅れを取り戻す対策などの情報を、自治体・学校・各家庭に向けて提供しています。

将来的に、すべての子どもが平等に学びの機会を得られる環境を用意することは、私たち大人が果たすべき責任です。

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日本のICT教育の現状を見ていきましょう。

「ICT教育」後進国の日本

日本のICT教育は、世界に比べて遅れているといわれています。

2018年度にOECD(経済協力開発機構)が実施した調査によると、教員が児童・生徒にICTを使った活動をさせる割合は20%未満でした。

当然、日本の児童・生徒がコンピューターを使って宿題をする頻度も低く、38の加盟国中最下位となっています。

一方、子どもたちがインターネットを利用する時間は、加盟国の平均を超えています。日本はいつでもインターネットが使える環境が整っているのに、学習や教育には生かされていないのが現状です。

参考:
「GIGAスクール構想」について – 文部科学省
OECD 生徒の学習到達度調査2018年調査(PISA2018)のポイント

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「オンライン授業」と「GIGAスクール構想」

「GIGAスクール構想」とは、日本全国にICTを活用した教育環境を整備するための文部科学省の計画です。ICTを教育現場に取り入れることで、主に次のような変化が期待できます。

・場所や時間にとらわれず、オンラインで学べる
・子どもの個性やペースに合わせた学習ができる
・プログラミングの授業を効率的に実施できる
・テストの採点やプリント作成など、教員の実務を減らせる

対面形式の授業では、子ども一人一人の理解度に合わせた進行は難しく、勉強についていけない子や、簡単すぎてつまらなくなる子が出ていました。

しかし、ICT教育では、子どもの理解度に合わせて復習や先取りができるため、子どもの学習意欲が高まります。

教員不足が心配される外国語やプログラミングも、遠隔授業によって1人の専門教員がたくさんの子どもたちに一度に教えることが可能です。

また、実務のクラウド化や自動採点機能などが整備されれば、授業以外の仕事を効率化でき、教員の負担も軽減されます。

具体的な取り組み

GIGAスクール構想を実現するための、具体的な取り組みは以下の通りです。

・義務教育を受ける児童・生徒に、1人1台の端末を用意
・学校内の高速ネットワーク環境を整備
・教育用ソフトや校務支援システムの開発・運用

文部科学省では、パソコンやタブレットなどの児童・生徒用端末の購入や校内ネットワーク環境の整備費用に対して、自治体に補助金を出し、各学校の活動を支援しています。

自治体や学校では文部科学省の方針にならい、それぞれの実情に合わせて使用する端末の選定やシステム導入の取り組みを進めています。

参考:令和3年度予算のポイント|文部科学省

小学校でオンライン授業のみは難しい?

教育のICT化が進むと対面授業はどうなるのか、保護者としては気になるポイントではないでしょうか。

大学や一部の中学高校などでは、既にオンライン授業が定着し、状況に応じて対面授業と使い分けている学校もたくさんあります。

しかし、小学校の場合はオンライン授業への移行に大きなハードルがあるともいわれています。小学校のオンライン授業導入が難しい理由を見ていきましょう。

教室でしか学べないこともある

学校は、子どもにとっての社会です。子どもは学校に通うことで、家族以外のさまざまな人との交流の機会を得て、社会性を身に付けていきます。

友達と遊んだり、けんかして仲直りしたりするのも、立派な社会勉強です。運動会や発表会などの行事を通して、皆で協力することの大変さや楽しさも学べるでしょう。

オンライン授業では、学習の遅れは取り戻せますが、先生や友達との対面でのコミュニケーションは再現できません。新型コロナウイルス感染症対策で一斉休校になったときも、子どもたちの精神面への悪影響が心配されました。

オンライン授業の整備と同時に、教室でしかできない学びの時間を確保することも、しっかりと考えていかなくてはなりません。

環境による格差も問題に

オンライン授業を受けるためには、家庭側にも環境の整備が求められます。一斉休校のときは急だったため、パソコン・タブレットを所有していない家庭やWi-Fiを使えない家庭が多く、オンライン授業の実施を断念する学校もありました。

現在は、学校が用意した児童・生徒専用の端末配布が進んでいます。しかし、インターネットへの接続環境は、各家庭で用意しなければなりません。

また、家庭でのオンライン授業は、低学年になるほど時間割の管理や端末の操作などで、保護者の手助けが必要です。周りに頼れる人がいない場合、授業に参加できずに終わる可能性もあります。

経済的に厳しい家庭や保護者が忙しい家庭など、環境による格差が生じやすい点がオンライン授業の課題です。

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各自治体の取り組み事例

GIGAスクール構想の実現に向けて、各自治体ではどのように取り組んでいるのでしょうか。主な事例を見ていきましょう。

東京都 墨田区

墨田区では2021年1月から、区立小中学校の児童・生徒に学習用タブレット端末を配布しています。

配布開始に伴い、家庭での使い方やルール、ICT教育のイメージ動画などの資料を公式サイトに掲載し、保護者への理解を求めています。

また、各学校が動画やオリジナルサイトを作成して、GIGAスクール構想への取り組み状況を発信しているのも特徴です。中には児童が主体的にGIGAへの取り組みを発信している小学校もあります。

参考:
墨田区小学校児童・生徒にタブレット端末を配布します 墨田区公式ウェブサイト
すみだGIGAスクール構想について 墨田区公式ウェブサイト

神奈川県 相模原市

相模原市では2020年度中に、児童・生徒への端末配布が完了しています。

端末配布と同時にGIGAスクール構想についての市の考え方や留意点、目標などをまとめた学校向けのハンドブックを作成しました。

ハンドブックを読めば、市内全ての学校関係者が共通の認識の下で、ICT教育を進められるようになっています。ハンドブックはPDF形式で、誰でもダウンロード・閲覧が可能です。

プログラミングや情報活用についてまとめた冊子もあるので、興味がある人は読んでみるとよいでしょう。

参考:相模原市 教育の情報化

新潟県 新潟市

「iPad」を活用したICT教育を始めた新潟市では、専用サイト「GIGA SUPPORT WEB」を立ち上げて、教職員へのサポートの他、地域や保護者、子ども向けのコンテンツを発信しています。

iOSアプリの活用方法や教科ごとの実践例が詳しく紹介されており、新しい情報も随時追加される予定です。

子ども向けページには、目の健康に関するマンガやタイピング練習コーナーなど、楽しくタブレット学習を進められるコンテンツが掲載されています。

参考:GIGA SUPPORT WEB

熊本県 熊本市

熊本市は新型コロナウイルスによる一斉休校の開始から短期間で、端末の導入と教員への指導を進め、すべての市立小中学校でオンライン授業を実現させました。

熊本市教育センターの公式サイトでは、こうした経験を生かし、オンライン授業の環境を無理なく整える方法や授業のやり方、実際に授業を受けた子どもや保護者の感想などを紹介しています。

オンライン授業に使用するアプリケーションの操作方法も分かりやすく解説されており、これから利用する人も参考資料として活用できるでしょう。

参考:オンライン授業 | 熊本市教育センター

小学校の授業形式の今後

「対面授業」と「オンライン授業」には、それぞれメリット・デメリットがあります。

小学校の授業も、今後は両方のメリットを取り入れた形式に変わっていくと予測できます。未来の授業スタイル確立への道筋を見ていきましょう。

インフラ・環境整備が急務

GIGAスクール構想が進んでいるとはいえ、学校や地域によって、ICT教育に対する意識や物理的な環境には大きな差が見られます。

例えば、私立の学校なら、学校の一存で端末や設備の導入を進め、児童・生徒によりよい環境を提供できます。しかし、公立の学校では、自治体と連携して進めなければいけないため、時間がかかってしまうでしょう。

また、オンライン授業では一度に多くの端末からアクセスするため、サーバーダウンや回線のパンクで、授業がストップした事例も報告されています。

すべての子どもに公平にICT教育を実施するには、まだ十分な環境が整っているとはいえない状況です。

対面×オンラインの「ハイブリッド授業」に注目

新型コロナウイルス感染症対策の長い休校期間が終わり、対面授業が再開されてからも、オンライン授業の需要は高まっています。

感染への不安がぬぐえない人や不登校の子ども、病気やけがで登校できない子どもにとって、オンラインで授業に参加できるのは大きなメリットです。

そのため、対面授業の様子をオンラインで配信する「ハイブリッド授業」を実施する学校も増えてきました。登校するか、オンラインで授業を受けるのかを個人が選択できる時代になったのです。

実際にハイブリッド授業でオンラインを選択した人からは、画面越しでもクラスの雰囲気が伝わり、寂しくないことが分かったと、歓迎の声も上がっています。

一方で、先生の声が聞き取りにくい、板書が見えにくいなどの問題もあり、高性能なマイクやカメラ、より高速なインターネット回線の導入などが課題です。

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教育のICT化には課題も多い

オンライン授業を始めとする教育のICT化は、学校が抱えるさまざまな問題を解決する施策として、文部科学省が積極的に推進しています。多くの課題が残されているとはいえ、ICT化が止まることはないでしょう。

これまで当たり前だった対面授業も、ICT化が進めば大きく様変わりすると考えられます。保護者が学校に行かず、オンラインで授業を参観する日も近いかもしれません。

どの授業形態にも柔軟に対応できるように、日頃から情報を集め、心の準備をしておきたいものです。

取材・構成/Hugkum編集部

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