SDGsの目標11とは? 世界の都市化問題と日本が目指す未来都市

SDGsの目標11は「住み続けられるまちづくりを」です。全ての人々が安心して生活でき、かつ災害に見舞われてもいち早く復興できる強靭さを持ったまちが理想とされています。世界が抱える都市化問題や、目標達成のために個人ができることを紹介します。

目標11「住み続けられるまちづくりを」

SDGs(持続可能な開発目標)は、2015年に国連サミットで採択された国際目標です。経済・社会・環境の各方面における課題を17の目標と169のターゲットで示したもので、2030年を目標達成の期限としています。その中の11番目の目標が、「住み続けられるまちづくりを」です。

強靱で持続可能な都市の実現

目標11では、「包摂的で安全かつ強靱(レジリエント)で持続可能な都市及び人間居住を実現する」というゴールを掲げています。

ここでいう「包摂的(ほうせつてき)」とは、社会的立場の弱い人を含め「全ての人を一定の範囲内に包み込むこと・排除しないこと」です。「強靱(レジリエント)」には「強くてしなやかな」という意味があり、強靱な都市とは「災害があってもいち早く回復ができる都市」を指しています。

現在、世界の人口の過半数は都市部で生活をしており、その数は増える一方です。目標11は世界中の都市に存在する都市化問題に目を向けたもので、「全ての人々が安全で快適に住み続けられるまち」の実現を目指しています。

参考:JAPAN SDGs Action Platform | 外務省

増え続ける都市人口

都市部に暮らす世界人口の割合は2020年時点で55%ほどですが、2050年には70%近くまで増加するといわれています。一部の先進国では人口が減少していくものの、サハラ以南のアフリカや一部のアジア諸国は、人口が堅調に増加する見込みです。

働き手である労働年齢人口の増加は経済発展の原動力となります。一方で人口が都市部に集中した場合、「不平等」「治安悪化」「汚染」といった都市特有の問題が生じるのは避けられません。

人々が都市で安全・快適に暮らすには、電気・ガスやITといった「インフラ」を今以上に整備する必要があるだけでなく、大規模災害にも備えなければなりません。

参考:人口構成の変化 | 国連広報センター

世界が抱える都市化問題

都市の暮らしは便利で快適ですが、急激な都市化が進んだり、一つの地域に人が集中したりすると、人口増加に伴う弊害が生じます。実際に世界の多くの都市が抱える、さまざまな問題を見ていきましょう。

スラムの増加

都市部には多くの国や地域から、職を求める人々が流入します。豊かな生活やよりよい仕事を求めて移住したものの、職が見つからずに行き場を失う人は少なくありません。

こうした人々は「居住区として整備されていないエリア」に住み着く傾向があり、結果として「スラム」が形成されます。スラムは生活環境が劣悪で、公共サービスがほとんど行き届きません。感染症や疫病が蔓延しやすい上に、麻薬売買や売春などの犯罪の温床となることもあります。

都市の自然成長を放置すれば、人々の貧富の差はさらに拡大し、スラムは増加の一途を辿るでしょう。目標11では「2030年までに、全ての人々の、適切、安全かつ安価な住宅及び基本的サービスへのアクセスを確保し、スラムを改善する(11.1)」というターゲットを定めています。

インド・ムンバイ。高層ビルの建ち並ぶ市街とスラムが隣り合う。

災害対応力の低下

都市人口が膨張すると、「災害への対応力」が低下することが懸念されます。

新興国や途上国では、急激な人口増加に伴って市街地開発が無計画なまま進み、自然災害へのリスクが考慮されていないケースが少なくありません。密集市街地は火災の延焼のリスクが高く、一度災害が発生すると被害は予想以上に大きくなります。

また先進国においても、災害でエレベーターが停止すれば、高層建築物に住む人々は高層部で孤立してしまう可能性があります。地下鉄や地下街など「地下空間」が発達しているエリアでは、水害リスクも考慮しなければなりません。電力や公共交通に依存する都市部では、災害によって交通インフラが麻痺する可能性も高いでしょう。

このように多くの人や建物が集中する都市には、「災害への対応力」「回復力の速さ」が求められているのです。

公害の深刻化

社会経済活動が盛んな都市部では、必ずといってよいほど「公害」が問題となります。新興国では急激な都市化が進んでいますが、ゴミ処理施設や上下水道などのインフラが追いついておらず、環境負荷が増大しているのが現状です。

・工場や自動車の排気による大気汚染
・工場や生活排水による水質汚濁・土壌汚染
・廃棄物の増加
・騒音や振動
・ビル建設の掘削工事や水の汲み上げによる地盤沈下

中国・成都の河川汚染

 

目標11では、「2030年までに、都市の一人当たりの環境上の悪影響を軽減する(11.6)」というターゲットを設定しています。

日本政府が推進するまちづくりとは?

日本政府は、持続可能なまちづくりや地域活性化を推進するため「SDGs未来都市」という構想を掲げています。SDGs未来都市に認定された富山市と石巻市の事例を見ながら、日本が目指す「地方創生」への理解を深めましょう。

「SDGs未来都市」による地方創生

日本は、政治・経済・文化・人口が東京に集中する「東京一極集中」の構造です。首都圏は都市化問題の解決が必要となる一方で、地方は少子高齢化や人口減少に伴う「地域経済の衰退」が課題となっています。

東京一極集中を是正し、地方を活性化させるため、日本政府は「地方創生」という目標を掲げました。「SDGs未来都市」と称して、SDGsの理念を取り込んだまちづくりの取り組みを推進しています。

SDGsを積極的に進め、新たな価値を創造する提案を行った自治体は「SDGs未来都市」として認定されます。

参考:地方創生SDGs・「環境未来都市」構想

富山県富山市の取り組み事例

富山市は「コンパクトシティ」の構想で、2018年にSDGs未来都市に認定されました。コンパクトシティとは、「生活圏を小さくしたまち」のことです。重要な機能を中心部に集めた上で、路面電車やバスなどの交通網を充実させれば、車の運転ができない高齢者や子ども、障がい者も不便さを感じません。

富山市は廃線の懸念があったJR富山港線を引き受け、路線の一部に次世代型路面電車(LRT)を導入しました。LRTの利用者は大幅に増加し、まちは活気に溢れています。

参考:SDGs未来都市 とやま

宮城県石巻市の取り組み事例

宮城県石巻市は東日本大震災で甚大な被害を受けましたが、まちづくりへの取り組みが評価され、2020年にSDGs未来都市及び自治体SDGsモデル事業に選定されました。

少子高齢化が進む地方では、「高齢者の移動手段の確保」が大きな課題となっています。地下鉄やバスなどの交通網が発達していない地方は、車がなければ生活ができないという問題を抱えており、免許を返納した高齢者は不便さを強いられるのが実情です。

そこで同市では、2021年からのぞみ野地区において「グリーンスローモビリティ」の運用を開始しました。時速20km未満で公道を走る電気自動車で、ボランティアドライバーによる運転代行や乗り合いを想定しています。

参考:石巻市SDGs未来都市計画

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SDGsの担い手として個人ができること

強靭で持続可能な都市をつくるには、個々の力も欠かせません。SDGsの目標11に関連して個人ができることを紹介するので、一人一人がまちづくりの担い手であることを意識しましょう。

まちの魅力を発掘・発信する

まちを活性化する取り組みの一つに、「まちの魅力を発掘し、発信すること」が挙げられます。都会には都会の、地方には地方のよさがあります。地元の魅力を掘り起こし、SNSなどで全国に発信してみましょう。

そこに住む人が魅力を発信すれば、移住者や観光客の増加につながり、まちが活性化します。地域の外に出ていってしまった人も、自分の生まれ育った場所のよさに改めて気付き、戻りたいと思うかもしれません。

防災意識を高める

目標11では、災害が起こっても元の状態にいち早く回復できる強靭な都市を目指しています。一人一人が防災意識の向上に努めれば、災害時の混乱や被害を最小限に抑えることができるでしょう。

・地域の防災イベントに参加する
・避難経路を確認しておく
・家族で緊急時の連絡方法・避難場所を確認する
・非常持出品の準備をする(非常食・水・ラジオ・救急箱など)
・家具類の転倒防止対策をする

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住みたいまちのビジョンを掲げよう

SDGsの目標11は「強靭で持続可能なまち」をつくることです。世界の人口増加はアジアやアフリカに牽引されており、2050年には都市人口の割合が70%近くに達すると予想されています。

都市人口の増加は必ずしもマイナスではありませんが、環境汚染やスラムの増加などの問題が深刻化するでしょう。日本では、東京一極集中による地方都市の衰退が懸念されています。

目標11を達成するには、個々がまちづくりの主役であることを認識し、住みたいまちのビジョンを掲げることが大切です。まちのために自分ができることを考えてみましょう。

構成・文/HugKum編集部

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今回の記事で取り組んだのはコレ!

  • 11 住み続けられるまちづくりを

SDGsとは?

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