目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」
SDGs(持続可能な開発目標)は、17の目標と169のターゲットから構成された国際社会共通の課題です。社会・経済・環境における世界の問題を解決するため、2015年の国連サミットで採択されました。9番目の目標「産業と技術革新の基盤をつくろう」の詳細を見ていきましょう。
インフラは産業発展の基礎
目標9のテーマは「強靱(レジリエント)なインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進及びイノベーションの推進を図る」です。「強靱なインフラ」とは、被害を受けてもいち早く元の状態に回復できる「しなやかな強さ」を備えたインフラを指します。
ガス・水道・電気・情報通信などの「インフラ」は産業の土台であり、土台がしっかりしていなければ産業の持続的な発展は見込めません。しかし、世界には生活の基礎となるインフラが未整備の国があり、産業発展の恩恵が受けられない人が大勢存在します。
「誰一人取り残さない」というSDGsの基本理念の下、インフラを整備し、産業や技術革新の基礎を固めていく重要性を示したのが目標9なのです。
参考:JAPAN SDGs Action Platform | 外務省
社会を大きく変える「技術革新」とは?
インフラの整備は、「技術革新」を加速させます。技術革新とは、生産技術などが刷新されて新たな価値が創出されることです。
例えば、AIによる自動運転やスマートスピーカー、ウェアラブル機器での健康管理などは、技術革新が生み出した新たなサービスです。これらは社会の問題を解決し、人々の暮らしを豊かにする可能性を秘めています。
技術革新には、ITインフラの構築が欠かせません。しかし、世界の40%強にあたる約32億人はインターネットにフルアクセスできない状況に置かれています。
参考:Digital 2020: 3.8 billion people use social media – We Are Social Global
SDGsの目標9が必要な背景
目標9が必要な背景には、途上国のインフラ事情が関係しています。産業発展に伴う「エネルギー消費の増加」も問題視されており、世界は2030年までに多くの課題を解決しなければなりません。
途上国はインフラが未整備
発展途上国の中には基礎インフラが未整備の国があり、産業や社会の発展が大きく遅れているのが現状です。
特にサハラ以南のアフリカや南アジアには、貧困層や低所得層が集中しています。これらの地域では、飲み水の確保が困難な上に基本的な衛生施設がなく、感染症や病気の蔓延も懸念されているのです。
このままインフラ整備が遅れれば、産業発展や技術革新が妨げられ、先進国と途上国の格差はさらに拡大するでしょう。
参考:持続可能な開発目標(SDGs)ー 事実と数字 | 国連広報センター
産業の「省エネ化」も課題
産業発展には「エネルギー」が不可欠です。日本を始めとする多くの国は、エネルギーの大部分を「化石燃料」でまかなっています。
石油や石炭などの化石燃料は、燃焼時に二酸化炭素を排出し、地球温暖化を助長します。また、近年は新興国のエネルギー需要が増加傾向にあり、消費量が増え続ければ、地球のエネルギー資源は枯渇してしまうかもしれません。
産業発展を推進すると同時に、国や企業には「省エネ化」や「効率化」が求められているのです。エネルギー自給率が低い日本では、太陽光・風力・水力・バイオマスなどの「再生可能エネルギー」の活用が検討されています。
参考:2020—日本が抱えているエネルギー問題(後編)|資源エネルギー庁
日本の産業発展を阻むものは?
日本は、戦後の高度経済成長を経て先進国の一員となりましたが、現在は時代とともに産業構造が変わり、経済や産業は停滞状態が続いています。目標9に関して、日本はどのような問題を抱えているのでしょうか?
ICT技術の普及率の低さ
日本は他の先進国に比べ、ICT技術の普及が遅れています。ICTとは、通信技術を活用したコミュニケーションの総称です。ITは情報技術そのものを指すのに対し、ICTは「情報技術の使い方」に重きが置かれていると考えましょう。
ICTの活用の代表的な例として、「テレワーク」や「キャッシュレス決済」が挙げられます。国土交通白書(2020)によると、日本のキャッシュレス決済の普及率はわずか19.9%で、中国や韓国といった他国と比較しても大きな後れを取っているのが現状です。
教育現場でのICT導入も十分に進んでおらず、電子黒板・パソコン・タブレットなどのICT機器を使って効率よく学習できる日は、まだ先になるでしょう。
インフラ設備の老朽化
インフラ問題は、途上国だけの問題ではありません。日本では、高度経済成長期以降に建設されたインフラの老朽化が急速に進んでいます。国土交通省のインフラメンテナンス情報によると、2033年3月までに「建設後50年以上」経過する国内の道路橋は63%、トンネルは42%、河川管理施設は62%になる見通しです。
老朽化したインフラは、災害リスクを増大させる恐れがあります。国は老朽化対策として「インフラ長寿命化計画」を打ち出していますが、全てのインフラを整備するには多額の資金・時間・労力が必要となるでしょう。
参考:社会資本の老朽化の現状と将来 – インフラメンテナンス情報
企業・団体の取り組み事例を紹介
目標9を達成するために、日本の企業・団体は独自の取り組みを始めています。私たちの暮らしは、誰かが生み出した新しい技術やアイデア、仕組みによって支えられているといっても過言ではありません。
ヤフー株式会社「パスワードレス」
ICTの導入が進めば、「第三者によるなりすまし」や「不正アクセス」などで個人情報が漏えいする恐れがあります。ヤフー株式会社では、データセキュリティの安全性を強化するため、2017年に「パスワードレス認証」を導入しました。
通常、ヤフーの各種サービスを利用する際はパスワードの入力が必要ですが、ユーザーが事前設定をした場合、SMS認証や生体認証(指紋・顔)でログインができます。ヤフーでは情報化社会をリードする企業として、今後も情報セキュリティの確保に力を入れていく方向です。
参考:ヤフーが推進する「パスワードレス」その進捗と今後の展望 – Corporate Blog – ヤフー株式会社
県立広島大学「人工光植物工場」
県立広島大学は、人工光と水耕栽培のみで植物を育てる「人工光植物工場」の研究開発に力を入れています。工場内では、ベビーリーフやレタスなどの葉物野菜が育てられており、栽培から20~40日で出荷が可能になるそうです。
人工光植物工場には、「最小限のエネルギーで最大限の収穫ができる」「季節や気候変動に左右されない」などの強みがあります。今後、より技術開発や商用化が進めば、食糧危機や農業従事者の減少、不作による価格の変動といった問題が解決されるかもしれません。
参考:人工光と水耕栽培により屋内で植物を育てる「人工光植物工場」が庄原キャンパスにオープン|県立広島大学 SDGs特設サイト
目標達成のために私たち個人ができること
目標9の達成のため、個人ができる取り組みを紹介します。産業が普段の暮らしにどう影響しているかを考え、周囲と考えをシェアすることも立派な取り組みの一つです。自分ができるところから始めてみましょう。
寄付や募金をする
産業発展や技術革新への直接的な関与が難しいときは、寄付や募金によって企業や団体をサポートしましょう。JICA(国際協力機構)や日本ユニセフ協会などの団体を通して、インフラが整備されていない途上国に寄付をするのも一つの方法です。
また、国内の多くの大学では、研究活動への支援金を募っています。人々の支援によって優秀な人材が育成され、研究開発が進めば、日本の産業発展にプラスの効果をもたらすはずです。
生活を支える技術に目を向ける
生活を支える技術やインフラに目を向け、「どのような仕組みで成り立っているのか」「もしなくなったらどうなるのか」「他の活用法はないか」などを考えてみるのもよいでしょう。
近年、私たちの生活にAIが導入されているのを知っている人も多いはずです。例えば、街中やビル内には高度な画像認識技術を搭載した「AIカメラ」が設置され、人の目に代わってさまざまな異常を検知しています。今後は、AIとロボット技術を融合した最新のサービスが生まれるかもしれません。
暮らしの中に溶け込んでいる技術に目を向け、家族と考えをシェアすることも、SDGsの重要な取り組みの一つです。
産業と技術革新が未来を変える
地球上の全ての人類が豊かな暮らしを享受するには、産業を発展させることが重要です。しかし、世界にはインフラが未整備の国が多くあり、富む人と貧しい人の格差が拡大しています。
近年は、エネルギー資源の枯渇や環境破壊などの問題も顕在化しているため、新たな技術や仕組みで世界の産業基盤を変えていく必要があるでしょう。持続可能な産業化に向けて、国や企業はさまざまな取り組みを始めています。私たちはその取り組みに注目し、できる限りのサポートをしましょう。
文・構成/HugKum編集部
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