イギリス式の小学校体育はゆるい
体育の時間、好きでしたか?
私はですね……大っ嫌いでした…(目をそらして低い声で)。
なにしろ悲しいかな運動神経とリズム感が皆無で、本当にどんくさい私。ああ、「どんくさい」という日本語の痛々しく的確な表現力よ!!私の苦手科目は算数と体育で、得意科目は美術と国語。部活は美術部と演劇部。絵に描いたようなザ・文化系、そしてそのまま文化系職業につくという人生を送ってきました。唯一、水泳だけはスイミングスクールに通っていて泳げたので、夏だけは体育でも堂々としていました。でも秋風が吹くとまた存在をスッと消して、プランクトンのようにひっそり生息するの繰り返しでした。
ちなみに、息子が通うブリティッシュスクールでの体育の名前は「Physical education」で通称「P.E.」。小2の今は週に1回P.E.の時間があり、その日は登校から体操服で行きます。これは着替えを省略できて荷物も減らせる、なかなかいいシステムだなと思っています。
では実際の授業内容はどうなの?
息子からの少な〜い情報から判断するかぎり、日本よりかなりゆるそうです。なにしろ息子の学校は小規模校でグラウンドもかなり狭いし、体育用具も日本より少ない。そしてこの日中暑いバルセロナで、P.E.後もそのまま体操服着ているくらいだから、汗を大量にかくほどの運動量もないことも容易に想像できます。
P.E.って、どうも体を鍛えるというより楽しい遊びの時間みたいだな…と思ったころ、運動会にあたる「スポーツデー」が開催されました。
運動会も、ひらすらゆるい
去年の6月に行われたスポーツデーはこんなかんじ。小1クラスの様子です。
有志ママによるスイーツ&ドリンク販売は学校行事の定番なのですが、そのほかを見学した感想はこれにつきます。
「ゆっる〜〜〜!!!!」
いっしょに行った夫と共に、何度も「ゆるすぎる、すごい」と連呼しまくってしまいました。その理由を順に説明していきます。
(1)開催時間が短い
スポーツデー開催時間は午前中数時間のみ。午後は普通に授業があります。日本の運動会は一般的には一日がかりの一大イベントですが、こちらはちょっと長めの授業参観といったかんじ。グラウンドも小さいので、学校全体でやらずに数学年単位で開催するので短時間で終わる、という理由もあるようです。
(2)お弁当がいらない
午前中で終わるので、そのあとは普通に給食があるし、弁当を持って行く必要はありません。親が特別に準備するものもありません。
(3)服装バラバラ
いちおうチーム対抗戦になっていて、4チームに分かれます。チーム名は「MANDELA(ネルソン・マンデラ)」、「MARIE CURIE(キュリー夫人)」、「PICASSO(ピカソ)」、「SHAKESPEARE(シェイクスピア)」。わはは、スポーツデーとは思えぬ、スポーツ色ゼロのチーム名!
チームごとに色が決まっていて、下はいつものPE用の短パンで、上はチームカラーの色にあわせた私服を着てくるルール。でも色以外にルールがないので、Tシャツだったりポロシャツだったりイラスト入りだったり統一感がかなり薄い。熱中症予防のため帽子は推奨されてましたが、必ずかぶるルールじゃないし、帽子も私物なので、見た目的にはかな〜りバラバラです。
(4)常に水筒持参
熱中症対策なのか、生徒は常に片手に水筒。グラウンドに入場するときや、競技の列で順番待ちしているときも水筒から水を飲んでいる、そんな姿にはビックリしました。
(5)競技が簡単そう
競技数は少なく、短距離走やシンプルな障害物競走などだけです。日本の運動会のように、数人で協力しないと運べないような大きな用具はいっさい使いません。チームワークがかなり必要だったり、長期にわたる練習が必要な競技もありません。
(6)そもそも練習してなそう
競技をする様子をみていると、生徒の緊張感はほとんどなし。ルールをその場で説明している様子もあり、どうも運動会前に練習した気配がない。練習してたにしてもそうとう少なそう。
(7)音楽が運動会的ではない
BGMが、子ども向けとかスポーツデー向けとかいうセレクトではなく、いま流行りのポップミュージックを適当に流しているっぽい。
(8)公式行事的じゃない
日本の運動会は、選手宣誓のある開会式や閉会式、お偉い方の挨拶、しっかりしたアナウンス、プログラム、となにもかもがキッチリしています。そのどれもがスポーツデーにはありません。最初と最後に校長先生のちょっとした挨拶はありますが、全体的には、なんとなくはじまってなんとなく終わるかんじです。保護者も「応援にきた」というよりは、ちょっと見に来たよ風情。
……どうですか、むちゃくちゃゆるくないですか?
日本で通わせてた公立保育園の年長クラスのほうがよっぽどハイレベルで、しかも時間をかけて練習を重ねていたことをつい思い出してしまいました。園児たちのあまりの頑張りぶりに、他人の子どもの姿にすら、目頭が熱くなっていたものでした。でも、スポーツデーには涙が出るポイントなんてどこにもない(笑)。
ただ、緊張感がない分、子どもたちはとても楽しそう。「ゆるいな〜!」とビックリしたものの、息子も楽しそうだからまあこれはこれでいいね、というのが我が家の感想でした。
そして2回目のスポーツデー
そんなスポーツデーから早くも1年経ち、今年もスポーツデーの季節がやってきました。今回はバスに乗って移動し、市内のスポーツ施設を借りて開催するとのこと。バルセロナ市内はグラウンドが狭い学校が多いとはいえ、さすがにうちは狭すぎるもんなあ…。
ところが、直前になっても学校から見学時間についての案内メールが来ないので、クラスチャットなどで確認したら「場所も遠いから、今年は父母は見に行かなくてもいいみたい。行きたければ行ってもいい」とのこと。
わはは!見に行かなくてもいいって、ゆるさがさらに極まったな!!じゃあちょうど仕事も詰まってるし…と今年は私は見に行きませんでした。
夕方に学校SNSで送られてきた写真を見たら、こんなかんじでした。
おおお、大人の陸上大会もできそうなちゃんとしたグラウンド、わざわざバスで行っただけのことはある!!しまった、やっぱ頑張って行くべきだったか…とは思ったけど(何人かは見に来てたらしい)、ただグラウンドが立派になってもやってることはゆるいまんまなんだろうなあ(それはそれで面白いけど)。
ちなみに、欧米ではこのゆるい体育、ゆるい運動会はわりと普通みたいです。というか、運動会そのものがない学校もけっこうあるくらい。(ちなみに入学式や卒業式や始業式や終業式もないところがほとんど。息子の学校もない。これビックリですよね…)
このゆるさはいいのか悪いのか?
さて、こんなにも違う日本とイギリスの体育と運動会。どちらがいいかといえば、ちょっと判断が難しい。
なにしろイギリス式、楽しさ重視なのはすばらしいけれど、ゆるすぎるといえばゆるすぎる。日本の体育はきっちりしていて難易度の高い内容をやる分、いろんな技術や体力や精神力が身に付く。運動会の前に練習を重ねる分、子どもは達成感を味わえるし、親だって我が子の成長を確認できる。そういう部分においては日本の運動会はいい部分もたくさんあります。我が家のような文化系家庭ですらそう思うのだから、体育大好き!運動会大好き!な日本人家族だったら、イギリス式スポーツデーにはかなりガッカリするだろうと思います。
とはいえ、日本人は基本頑張りやさん民族なので、多少やりすぎてしまうところもあって、「運動会の練習に時間をかけすぎ」「組体操などリスクが高いことやりすぎ」「先生や親の負担が大きすぎ」などの不満の声もよく聞きます。(なにしろ最近では日本でも、そんな声を受けて、運動会を午前中だけの簡略バージョンにする学校もでてきているそうで…)
ちなみに、冒頭で「体育が大嫌い!」宣言をした私ですが、実はいまや運動好きだったりします。走るのこそ嫌いですが、踊ったり、ヨガなどのエクササイズをするのはかなり好き。定期的にやっている運動量はたいしたことないけど、旅先にはよく折りたたみのヨガマットを持っていって、時間があればストレッチをしています。
私は長い間、学生時代の暗い記憶から「運動が嫌いだ」と思い込んでいたのですが、大人になってみてわかったのは「運動神経がないせいで肩身の狭い思いをする場が嫌いなだけで、体を動かすことそのものはとても楽しい。むしろ好き!」ということでした。つまり、日本式体育の時間は、運動神経の悪い私のような人間にとっては、運動嫌いになったりトラウマを作り出してしまう場でもあったのです。
そう考えていくと、ベストな体育&運動会って、日本式とイギリス式のちょうど中間くらいなんじゃないかな…?そんな風に私は考えています。
ところで、息子はしょっちゅうすっころぶ男で、どうも私と同じく運動神経がなさそうです。そんな息子が、これから体育や運動に関してどう感じていくのかが、ちょっとドキドキな今日このごろなのです。
息子へ。
これから自分の運動神経に関していろいろ思うところはあるかもしれないけれど、運動はいいものだよ。人間のバランスを整えてくれるよ。本当だよ。
お互いに、運動を楽しもう。
ハラユキ
イラストレーター&コミックエッセイスト。夫の駐在赴任により、2017年6月よりスペイン・バルセロナ在住。雑誌やWEBなどでイラストやマンガを描いたり、コミックエッセイ書籍を出版。「東京くらし防災」(東京都)のイラストも担当。スペインに住んでからは、「世界の家族の家事育児分担事情から知る、つかれない家族を作るヒント」や現地ごはん情報なども発信中。おいしいごはんと宴会と祭りとお風呂屋さんが大好き。6歳男児の母。家族をテーマにしたオンラインサロン「バル・ハラユキ」も主宰中。Twitterでは日々の生活や考えたこと、instagramでは主に食いしん坊メモを英語とスペイン語つきで発信中。
■第1回目・ハラユキファミリーのバルセロナ暮らしの概要はこちら
■最新のバックナンバー