ファイナンシャルプランナーが子育て中のパパママに必須な「お金」の話を、絵本を例にとりながらわかりやすく解説していくリレー連載。第7回は「わらしべ長者」という絵本を通して、子どもにもわかるビジネスの基本について考えます。子どもと一緒に絵本を読むことで、お金の原点を学ぶことができます。
目次
古くから伝わる日本のおとぎ話『わらしべ長者』
はじめまして、キッズマネーステーショ認定講師、ファイナンシャルプランナーのたちざきよしこです。
今回は、『桃太郎』同様に皆様一度は読んだことのある『わらしべ長者』から人生とお金の関係を読み解いていきましょう。
わらしべ長者はTrue Story!?
物々交換の史実
私がこの本を紹介したい理由は二つあります。一つは、おカネが信用を失っていた時代があるという歴史的事実を今に伝える本だからです。
日本銀行本店の向かいにある貨幣博物館の入り口に、わらしべ長者のことが記載されているパネルがあります。日本では奈良時代から和同開珎など国産の貨幣が作られ、流通しました。しかし質が悪いなどの理由で、中世には貨幣の信用がなくなり、わらしべ長者のように銭ではなく、布などを対価として交換していたという説明でした。
私はこの説明を読み非常に驚きました。物々交換は、ヒトがお金を作り始める前のことと認識していたからです。おカネがあっても、おカネに信用がなくなると、原始同様の物々交換に戻るのです。
日本版アメリカンドリーム
二つ目の理由は、私の講師仲間からこの本が「お金もちになる方法」について記載されていると教えてもらい、それ以来このお話について深く考えるようになったからです。戦国時代の日本には農民の子(豊臣秀吉)が天下を取ったなど、リアルわらしべ長者は何人かいるので、日本で大金持ちになった人の実話といえます。
他人が困りことを解決できるとお金になる→ビジネスの種
皆さまご存知「わらしべ長者」のお話は今昔物語や宇治拾遺物語が原典で、訳者によっていろいろなパターンがあります。主人公が、若者やおじさんの場合もあります。比較的現代の訳では、長者の娘婿になるというハッピーエンドもありました。私が数パターン読んだなかで共通している「わらしべメソッド」のあらすじはこんな感じです。
わらしべメソッドのあらすじ
前向きさ、気前の良さ、賭ける能力が成功の鍵に
わらしべ長者の「男」のすごさは3つあります。一つめは、「前向き」なところです。観音様のお告げをきいて、さぞや素晴らしいお宝をつかむと思いきやわら(藁)をつかんでしまった。受け入れたくない事実ですが、「立ち上がって、歩きだす」のです。
二つ目は、観音様には掴んだものを離すなと言われたけれど、困っている人に頼まれたら譲ってあげる「気前の良さ」や「融通がきく」ところです。男は数々の偶然に遭遇します。偶然ですが、困っている人を助けるというチャンスを活かせたので、わら(現代の価値でゼロ円)からミカンやふきなど(数百円)のものに交換できます。
三つ目は、どのパターンにも共通して登場する「馬を手に入れる」シーンで見られます。ここでの交換はそれ以前の交換とは違います。男は馬が元気にならないかもしれない「リスクを負いながら、自分の能力に賭ける」のです。
馬が登場する直前の交換で、男はきれいな錦(現代価値 100 万円相当)を手にしています。馬を見て見ぬふりをして、ホームレス生活を早々に脱却することもできました。ところが男は自発的に馬と布の交換を申し出ます。行間を現代風に埋めるとこんなかんじでしょうか。
数回の偶然から学び、リスクをとって新しいことをする。男は、自己改革できました。お金持ちになれるのは、学びを実践に活かせるかどうかにかかっています。
お金もうけの極意。問題解決のタイミングが相手にとって「嬉しい」ときほど価値が高い
総じて、この「男」には商才があります。それは、解決のタイミングが相手の急場をしのげられれば対価が高くなるとことをわかっているところです。現代でも、ネット通販のお急ぎ便や、徒歩の距離を時短のためタクシーで移動する場合、私たちは高くても対価を支払い満足しています。
スタートは I have a dream! お金も家も仕事もないけど、ビジョンがあった
わらしべ長者は必ず神仏にお願いするところからスタートします。「男」には、ビジョンがありました。それは、私の想像では「ホームレス生活脱却」といった目先のことではなく、「大金持ちになりたい」とか「幸せになりたい」という長期の目標です。ビジョンがしっかり描けていたので、現実を向上させ、幸せを掴めたのです。
単調な物々交換が続くわらしべ長者ですが、紐解くと実はお金持ちになれるメソッドが集約されたお話ともいえます。
【執筆者プロフィール】
たちざき よしこ
キッズ・マネー・ステーション認定講師/ファイナンシャルプランナー
数年前まで資産運用会社でファンドマネージャーのアシスタントを10年経験。現在は、小学校低学年の子どもを育てながら、社労士事務所で勤務。親子向け金銭教育を中心に活動している。
記事監修
「見えないお金」が増えている現代社会の子供たち。物やお金の大切さを知り「自立する力」を持つようにという想いで設立。全国に約160名在籍する認定講師が自治体や学校などを中心に、お金教育・キャリア教育の授業や講演を行う。2018年までに1100件以上の講座実績を持つ。