不登校の中学受験生が閉ざされた心を開く。次回は小心者キャラ橘の名ゼリフ出るか!?【おおたとしまさ連載第7回】

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この秋の日本テレビ系ドラマ「二月の勝者−絶対合格の教室−」。HugKumではドラマ放送期間中の毎週金曜日に、教育ジャーナリストのおおたとしまささんによる前週のストーリーの振り返りと、ドラマに出てきた中学受験情報の解説、そして次回放送内容を考察する記事を連載しています。

中学受験の視点から社会の矛盾をあぶり出す

ドラマ「二月の勝者−絶対合格の教室−」第6話では、ネオン街の黒木蔵人(柳楽優弥)の根城「スターフィッシュ」が無料塾であることが明かされた。

冒頭で、井の頭ボウルのマスターの娘・紗良は、スターフィッシュで黒木に指導を受け、名門・二葉女子学院に合格したことが明らかになる。また、黒木をつけまわすルトワックのカリスマ講師・灰谷純(加藤シゲアキ)は、怪しい学校関係者からスターフィッシュが無料塾であることを知らされ、思わずトレードマークの眼鏡を外す。

父親をATM呼ばわりし、塾説明会参加者を金脈だなどとのたまい、まわりからは銭ゲバだと思われがちな黒木の背景には、中学受験とは別の何か大きなテーマがある。私に言わせれば、「二月の勝者」という物語は、現代社会に表出した「中学受験」という特異点に視点を置くことで、この社会の構造的矛盾をあぶり出す作品なのだ。

 

最上位クラスに昇格するも自信を失う

©Nippon Television Network Corporation

さて、この回の主役は、柴田まるみと直江樹里。

柴田さんは引っ込み思案。塾には通えているものの学校には通えていない。いわゆる不登校児童だ。黒木の差し金で紗良の話を聞く機会を得て、二葉女子学院に憧れを抱き始める。実は紗良も小学校時代は不登校だったが、黒木と出会い、無料で中学受験のための指導を受け、一人一人の個性を大切にする校風で有名な学校に通うことができたというわけだ。

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柴田さんにとって二葉女子学院は偏差値的な意味で高嶺の花。それでも柴田さんは黒木に気持ちを打ち明ける。すると黒木は「二葉女子学院、いいじゃないですか。第一志望として目指しませんか」と言ってにっこり笑う。二葉女子学院のことを「いいな!」と感じた柴田さんに、心の底から「いいね!」する黒木。このときの黒木の目は、第3話で前田花恋に「席を空けて待ってるよ」と言ったときと同じ目だ。

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「黒木マジック」が今回もてきめんの効果を表す。不参加のつもりだった3泊4日の夏合宿に参加したいと、柴田さんは気持ちを変える。マジックとはいってもだましているわけではない。子どもたちを心の底から信じるまなざしが、子どもたちを勇気づけるのだ。

桜花ゼミナールの夏合宿が始まった。「中学受験塾が合宿!?」と驚く視聴者もいただろうが、実際に夏合宿を行う塾はある。

ホテルに到着すると、柴田さんがΩ(オメガ)クラス(最上位クラス)に昇格していることがわかった。仲間が増えたことを大喜びして、柴田さんを大歓迎するムードメーカー的キャラが直江樹里だ。引っ込み思案の柴田さんの戸惑いなどおかまいなしに、持ち前の明るさで、まるごと柴田さんを包み込む。

 

それだけではない。直江さんは、桜花ゼミナール吉祥寺校のエース前田さんにも一目を置かれている。鼻歌を歌いながらのテンションで算数偏差値72を叩き出してしまうのだ。前田さんが努力型であるのに対して、直江さんはいわゆる天才肌。ただし、教科によって凸凹がある。それも個性であり、だからこそ、直江さんも二葉女子学院を狙っている。

 

直江さんの存在は柴田さんにとって魅力的である一方で、やや刺激的すぎた。あまりのレベルの違いに打ちのめされ、合宿から帰宅するやいなや、柴田さんは母親の前で「フタジョなんて夢見てバカだった……私なんかが受かりっこない……」と言って泣き出してしまうのだ。

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『中学受験生に伝えたい勉強よりも大切な100の言葉』(おおたとしまさ・著、高瀬志帆・画、小学館・刊)より

 

クラスが上がることよりも友達ができることを喜ぶ親心

慌てた母親は早速黒木と佐倉麻衣(井上真央)に面談を申し込む。面談の席で母親は、「まるみはそんな難関の名門校じゃなくていいんです。あの子に合った、分相応の学校に行ってくれればいいと思ってます」「あまり無理をさせたくないと思ってます」と告げる。黒木は母親の気持ちを受け止めつつ、「まるみさんはオメガに上がって以来、クラスで友達ができて、生き生きとしている印象でした」と伝える。

「友達ができた」というそのひと言に、母親の表情が変わる。偏差値が上がることよりも、最上位クラスに上がることよりも、柴田さんの母親にとっては、不登校の娘に友達ができたことのほうが嬉しいのだ。

中学受験の最中、目先の偏差値にとらわれて、多くの親が本来親のあるべき姿を忘れてしまうにもかかわらず、柴田さんの母親は大切なものを見失っていなかった。黒木はそこも計算尽くだったのだろう。重ねて指摘する。弱音を吐けたことも成長だと。母親はほっとする。

 

『中学受験生に伝えたい勉強よりも大切な100の言葉』(おおたとしまさ・著、高瀬志帆・画、小学館・刊)より

 

母親が帰ったあと、黒木は佐倉に言う。「中学受験では本人よりも親のほうが先に音を上げます。子どもは、大人が思っているよりタフなものです」。このセリフは原作コミックでは第7集に出てくる。中学受験の一面の真実を見事に言い当てているセリフだ。

 

『中学受験生に伝えたい勉強よりも大切な100の言葉』(おおたとしまさ・著、高瀬志帆・画、小学館・刊)より

 

成績が振るわず落ち込んでいる子どもに親がすべきことは、子どもの代わりにままならない状況を改善してやることではなく、落ち込んでいる気持ちに寄り添うこと。それだけでいい。たとえば「ケーキ買ってきたからいっしょに食べよう」と言えばそれだけで、親の気持ちは子どもに伝わる。その安心感の中でこそ、子どもの目の輝きは一段と強くなって復活する。

ただしそのような態度でいることは、中学受験生の親にとって、まるで荒行だ。悟りの境地を目指すくらいの気持ちで取り組まないと難しい。でも子どもたちだって、日々自分と戦っているわけだから、親が先に音を上げるわけにはいかない。

 

友達に言いたいことを言えた成長

直江さんの両親は美容院を営んでいる。美容院の一角が直江さんの勉強部屋だ。すっかり柴田さんを好きになった直江さんは、そこに柴田さんを招待し、いっしょに勉強を始める。成績は圧倒的に直江さんのほうが上だが、柴田さんの丁寧さや苦手科目からも逃げない姿勢を見習いたいというのだ。

 

「私たちってまるっきり逆だね」という直江さんの何気ないひとことに、柴田さんは大きく反応する。「そもそもなんで、まるっきり逆の私なんかと……」「いっしょにしないで!」と言って美容院を飛び出してしまう。

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歩道橋の上で、直江さんが柴田さんに追いつく。

 

直江:いっしょにしないでって、そんなのこっちが言いたいセリフだよ。

柴田:私なんてぜんぜんできないもん。最初からいっしょじゃないよ。

直江:だからそういんじゃなくて! 樹里は5年のときからオメガなの。それ以来ずーっともう2年間いまの位置なの。

柴田:わかってるそんなこと! まるみみたいなできない子といっしょにされたら嫌なことくらい。そんなことわざわざ言ってくれなくても……。

直江:違う違う。そうじゃなくて。まるみは違う! だって、一人でコツコツ自習できることとか、嫌いな科目も逃げずにやるとか、本気出したらすぐ何人も抜いてオメガ上がってきたこととか……。まるみは、伸びしろしかないじゃん!

柴田:そんなの、樹里だってまだまだ伸びしろあるのに……だから、そっくりそのまま返すよ。

直江:……。

柴田:わかった。私、フタジョ目指す。樹里といっしょにフタジョ行きたい。

直江:樹里も、まるみといっしょにフタジョ行きたい!

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このシーン。ドラマでは途中から二人とも嗚咽しながらになっているが、原作では二人とも泣いていない。真剣に喧嘩して、わかり合うのだ。引っ込み思案で学校にも行けていなかった柴田さんにとっては、大きな成長の証として描かれている重要なシーンだ。

 

『中学受験生に伝えたい勉強よりも大切な100の言葉』(おおたとしまさ・著、高瀬志帆・画、小学館・刊)より

 

柴田さんに、紗良を差し向け、さらに直江さんを近づけたのはすべて黒木の作戦だ。しかしそれは、ただ単に二葉女子学院を受けさせたいのではなく、おそらく直江さんであれば柴田さんの心のふたを開けてくれると踏んでのことだったのではないかと私は推測する。むしろ黒木の主眼はそちらにあったのではないか。

原作ではこの辺りのプロセスにより多くの時間が費やされており、登場人物たちの気持ちが少しずつ揺れ動く様子が細かく描かれているのだが、ドラマではそうした機微がどうしても省略されるので、黒木の言動が誘導的に見えてしまっていることは念のため指摘しておく。

 

まったくやる気が感じられない子にどう接するべきか?

次回第7話は、夏休みが終わっていよいよ小6の秋に突入。次回予告を見ると、石田王羅くんにスポットライトが当たっているのがわかる。佐倉をして「どうやったらあの子がみんなと同じように勉強してくれるようになるか」と言わしめるおちゃらけキャラだが、のし上がろうとする意欲のかけらも感じられないどころか、トラブルを連発し、「勉強しないならなんで塾来てんのよ? 邪魔すんな!」と女子から怒られてしまう始末。

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おそらく石田くんについて話しているのであろうが、黒木が「勉強に向いていないとしても、塾に通わない理由にはなりません」と断言する場面もある。そのひとことに、私は強く共感する。

 

「勉強に向いていない」とか「中学受験に向いていない」とか言うのであれば、逆に問いたい。「勉強に向いてる子ってどんな子ですか?」「中学受験に向いてる子ってどんな子ですか?」と。答えられたとしても、おそらく「自ら進んで机に向かう子」や「努力が偏差値に結びつきやすい子」という意味だろう。

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勉強が得意な子がもっと勉強する気になるのは、たとえばサッカーが得意な子がもっと練習したいと思うようになるのと同じで、ある意味当たり前だ。でも、なかなか成績が上がらなくても、毎日塾にやって来て授業を受けているなら、それだけでも立派だ。

だって、いくら練習してもなかなかうまくならないサッカー少年が、それでも欠かさず練習に参加して、怒られた照れ隠しでヘラヘラしながらもサッカーを続けているのだとしたら、試合に出て点を取るような「結果」でなくて、その子なりの努力を続けていること自体を多くのひとが認めてあげるはず。なのに、なぜ、勉強が苦手な子は、「向いてない」とか「やる気がないならやめなさい」とか言われてしまうのか。私は不思議でならない。

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原作では、みんなから問題児扱いされる石田君に対して、ベテラン講師の橘勇作(池田鉄洋)が寄り添う。それを不思議がる佐倉に、橘はさりげなく、とてつもない名ゼリフを返す。おそらくドラマでも次回、その名場面が見られるのではないだろうか。橘はいつも年下の上司・黒木に怒られてばかりのダメキャラとして描かれることが多い。でも、彼にも黒木に負けない取り柄があるのだ。

 

ドラマの第5話を見逃したというひと、もう一度見たいひとは、ネットサービス「TVer」で、11月27日21:59まで視聴可能だ。ドラマ公式ホームページでは「第6回」のダイジェスト動画が見られる。「第7回」を予習したい人は、「次回予告」をどうぞ。

文/おおたとしまさ

二月の勝者 -絶対合格の教室』第6話は11月27日(土)夜10時より放送/日テレ系列

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ビックコミックスピリッツで大ヒット連載中の中学受験漫画『二月の勝者-絶対合格の教室-』と気鋭の教育ジャーナリストのコラボレーション。「中学受験における親の役割は、子どもの偏差値を上げることではなく、人生を教えること」と著者は言います。決して楽ではない中学受験という機会を通して親が子に伝えるべき100のメッセージに、『二月の勝者』の名場面がそれぞれ対応しており、言葉と画の両面からわが子を想う親の心を鷲づかみにします。

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