プログラミングとナゾトキは似ている! 学ぶことを楽しく【松丸くんの教育ナゾトキ対談】Vol.4 NPO法人CANVAS代表・石戸奈々子さん~後編~

現役東大生でナゾトキブームの仕掛け人・松丸亮吾さんによる連載「松丸くんの教育ナゾトキ対談」。松丸くんが、日本の子どもたちに「考えることは楽しい」と伝えるミッションのもと、日本の教育界でご活躍中の豪華ゲストの方々と、教育対談を繰り広げてくれます。

第4回のゲストは、子ども向けのワークショップを数多く提供するNPO法人CANVAS代表の石戸奈々子さん。石戸さんは文部科学省「小学校プログラミング教育の手引き」作成にも関わった、プログラミング教育の第一人者です。学ぶことが楽しいと感じることの大切さから、プログラミングとナゾトキの共通点について語る、後編です。

前編、中編はこちら▼

パソコンは鉛筆と同じ!デジタル教育の3つのメリット【松丸くんの教育ナゾトキ対談】Vol.4 NPO法人CANVAS代表・石戸奈々子さん~前編~
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テクノロジーで学びの可能性が広がる!【松丸くんの教育ナゾトキ対談】Vol.4 NPO法人CANVAS代表・石戸奈々子さん~中編~
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読み書きプログラミング

今年から小学校で「プログラミング教育の必修化」が始まります。今の親世代が子どもの頃にはなかったもので、不安に感じている保護者も多いと思います。石戸さんはプログラミング教育についてどう考えているのか、教えてください。

石戸 今の生活を見ればわかるように、お風呂を沸かす、冷蔵庫で何かを冷やす、銀行でお金を下ろす、何をするにしてもコンピューターに囲まれた生活をしていて、そのコンピューターはプログラミングで動いています。私たちの生活・文化・経済ありとあらゆるものにテクノロジーが影響を及ぼすという社会の変化のなかで、プログラミング教育が必修化されたんです。昔は基礎教養として読み書きそろばんと言われましたが、これから必要になるのは読み書きプログラミングです。

松丸 僕はプログラミングに詳しくないんですが、どういう授業になるんですか?

石戸 プログラマーを育成するような授業を思い浮かべている人も多いですけど、そうではありません。今まで子どもたちが当たり前のように学んできた九九や平仮名と同じようなレベルで、基礎教養として学んでいきます。

プログラミングというと昔みたいに黒い画面に暗号みたいなものを打ち込むイメージがあるかもしれませんが、どんどん進化していて、子どもたちが学習するのは直感的でわかりやすいインターフェースになったプログラミング言語です。

松丸 スマホやタブレットの普及でコンピュータがより身近になったこともありますよね。

石戸 そうです。幼稚園児でもできるようなことなので、大人がやれば、「そんなに難しくないのかも。楽しい。」と感じるはず。だからもしプログラミングを恐れているのなら、まずやってみて、子どもと一緒に楽しんでもらいたいですね。

松丸 幼稚園児でもできるんですね!

石戸 「うちの子はコンピューターが好きじゃないんです」という人がよくいるんですけど、好きなことから入ればいいと思うんです。絵を描くことが好きなら、自分の描いた絵がアニメーションみたいに動くプログラムを作るのもいいと思うし、音楽が好きな子なら、プログラミングで作曲してみればいい。

プログラミングも道具でしかないから、それを使って何を表現するか、何を作り出すかがいちばん大事なことなんです。むしろ、好きなことを伸ばすツールとして使ってもらえるといいんじゃないかな。

日常生活に役立つ、プログラミング的思考

松丸 僕は子どもの頃、『RPGツクール』というゲームを作るゲームで遊ぶのが好きでした。あるキャラクターに話しかけたらどんなセリフを言うとか、床に透明なブロックをしかけて、あるキャラクターが踏んだら別のキャラクターが歩いてきて話しかける、という感じで細かく設定できるんですよ。自分が作りたいものに対して、どんな順番で何を置いて、その結果、何がどう作動するのか、試行錯誤の末に自分が作りたいゲームが完成するんです。今思えば、これがプログラミングですよね。

石戸 まさに! 作りたいものを実現するための課題を見つけて、その課題を細分化して、順序立てて組み立てて、過不足なく指示しないとプログラミングは作動しないんですが、この考え方は日常の中でも役に立つと言われています。例えば料理で同じ品数を作るのに、3時間かかる人と30分でできる人がいますよね。それはやっぱり段取りの違いで、ジャガイモが煮えるまで時間がかかるからその間に他の材料を切っておくとか。まず自分のやることを洗い出し、論理的に組み立てるという考え方があると、日々の生活や仕事も、より効率的にできると思います。

松丸 「プログラミング」という言葉には距離を感じますけど、運動会の「プログラム」ってありますよね。あれも運動会を最初から最後まで滞りなく進行させるために組まれた「段取り」。そういうものがプログラミングだと考えれば、身近に感じますよね。

石戸 はい。子どもたちは柔軟なので、すぐに慣れて面白いことを始めますよ。CANVASのプログラミング大会でグランプリ取った少年は、もともと夏休みの自由研究として、渋谷のスクランブル交差点に毎日通って渋滞の流れを観察していたんですけど、それから、どんなふうに信号を制御したら渋滞が起こりにくいかというシミュレーターまで作ったんです。別の子は、お母さんが子どもを連れて病院に行って、問診票を書いたりするのがすごく大変そうだなと思ったそうで、病院に行く前に熱や症状を入力したらそれがデータでグラフ化されて、病院の先生と家族にその場で共有できて、なおかつ症状に合わせていちばん近い病院を探してくれるスマホのアプリを作りました。

松丸 それはすごい!

学ぶことが楽しいと思える姿勢がいちばん大事

石戸 テーマは様々なんですけど、最近は「身の回りの人を幸せにする」とか、「社会を良くする」ことに目を向けたプログラムを作る子が増えていると感じます。そういう意味でも、学校のなかに閉じない、すごくリアリティのある学びができるのがプログラミングです。

既にプログラミング教育を導入している学校の先生から聞く感想のなかでいちばん多いのは、「手を動かしながら学ぶことになるので、試行錯誤をしながら主体的に学習する態度が育まれた」という声なんですよ。まさにその試行錯誤する力、学ぶことは楽しいと思える姿勢こそ、これからいちばん大事なことだと思うので、それを育むツールとしてプログラミングを捉えてもおもしろい。これも、ナゾトキと共通していますよね。

松丸 そうですね。子どもは嫌いなものはやりたがらない。でも楽しいことはすすんでやりたがります。プログラミングでもナゾトキでも、楽しければそこを入り口にすればいい。

僕は、問題を解決する上で5つの力が必要だと思っています。1つ目は試行錯誤する力、2つ目は発想力、3つ目は論理的な思考力、4つ目は人と会話する力、5つ目は人の立場になって考える力です。この5つの力を鍛えるためにプログラミングというアプローチもあるし、ナゾトキというアプローチもある。

そこで忘れちゃいけないのは、どちらもツールだということで、保護者にとっていちばん大切なのは、とにかく子どもが興味を持って、自ら突き進んでしまうようなものをいかに提供するか、だと思います。

石戸 まさにまったく同じ考えで、CANVASのワークショップコレクションは2日間で150個ぐらいワークショップを開催しています。1つでも2つでも、自分はこれ好きだな、得意だなと思うことに出会えたら幸せだと思うし、それが入り口になって学びがぱっと広がるってことってあるじゃないですか。

ある小学生は、テニスのゲームを作りたくて、ボールの軌道を表現するために自ら三角関数を学び始めました。別の子は、プログラミングで作ったものを発信したら英語のコメントがついて、それに返事をするために苦手だった英語の勉強を始めました。

これまでの学校の勉強は国語、算数、理科、社会と分断されているけど、好きなものを作ったり表現する過程で改めて必要な勉強をしたり、学んだことを活かす機会もありますよね。学びはすべてにつながっていくから、好きなことを大切にしてほしいです。

松丸 子どもたちのポテンシャルは高いと思うんです。三角関数なんて高1で習うものだと大人は思うけど、自分の興味と繋がっていれば学年に関係なく学ぶんですよね。

石戸 これからの時代に必要な能力としてクリエイティビティとコミュニケーション力を挙げましたけど、もうひとつ付け加えるとすると、「変化対応力」だと思います。それはなにかと言うと、変化を楽しんで学び続ける力。そして、どんな分野においても学び続ける原動力となり得るのは、学ぶこと、考えることは楽しいんだという原体験なんです。この3つの力を持っている子は、たとえすごい変化が起きて今の教科書が全部非常識になったとしても、その時々に応じて必要なものを学び続けられると思います。

松丸 僕も、ナゾトキを通して伝えたいのは「考えることが楽しくなれば、無敵になれる」っていうことなんです。考えていることが一緒でびっくりしてます()

プロフィール

石戸奈々子|NPO法人CANVAS理事長/慶應義塾大学教授
NPO法人CANVAS理事長/慶應義塾大学教授
東京大学工学部卒業後、マサチューセッツ工科大学メディアラボ客員研究員を経て、NPO法人CANVAS、株式会社デジタルえほん、一般社団法人超教育協会等を設立、代表に就任。総務省情報通信審議会委員など省庁の委員多数。NHK中央放送番組審議会委員、デジタルサイネージコンソーシアム理事等を兼任。政策・メディア博士。著書に「プログラミング教育ってなに?親が知りたい45のギモン」「子どもの創造力スイッチ!」「デジタル教育宣言」をはじめ、監修としても「マンガでなるほど! 親子で学ぶ プログラミング教育」など多数。
これまでに開催したワークショップは 3000回、約50万人の子どもたちが参加。実行委員長をつとめる子ども創作活動の博覧会「ワークショップコレクション」は、2日間で10万人を動員する。
デジタルえほん作家&一児の母としても奮闘中。

プロフィール

松丸亮吾|謎解きクリエイター

東京大学に入学後、謎解きサークルの代表として団体を急成長させ、イベント・放送・ゲーム・書籍・教育など、様々な分野で一大ブームを巻き起こしている謎解きの仕掛け人。現在は東大発の謎解きクリエイター集団RIDDLER()を立ち上げ、仲間とともに様々なメディアに謎解きを仕掛けている。監修書籍に、『東大ナゾトレ』シリーズ(扶桑社)、『東大松丸式ナゾトキスクール』『東大松丸式 名探偵コナンナゾトキ探偵団』(小学館)『頭をつかう新習慣ナゾときタイム』(NHK出版)、など多数の謎解き本を手がける。

取材・文/川内イオ

▶︎前編はこちら「パソコンは鉛筆と同じ!デジタル教育の3つのメリット」

▶︎中編はこちら「テクノロジーで学びの可能性が広がる!」

▼第1回 高濱正伸先生(花まる学習会)との対談はこちら

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今月からHugKumで、松丸亮吾さんによる連載「松丸くんの教育ナゾトキ対談」がスタートします!東京大学に入学後、謎解き制作集団Ano...

▼第2回 宝槻泰伸先生(探究学舎)との対談はこちら

【松丸くんの教育ナゾトキ対談】Vol.2探究学舎・宝槻泰伸先生 世の中は「ハッキング」可能!学びの選択肢はひとつじゃない~前編~
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▼第3回 藤本徹先生(東大 ゲーミフィケーション研究者)との対談はこちら

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