子どもの能力が伸びるかどうかは、親の子育ての意識次第!【中室牧子先生×松丸亮吾さん教育対談】

テレビやメディアで大活躍のナゾトキブームの仕掛け人・松丸亮吾さん。東大生でもある松丸さんが、子どもたちと親御さんに「考えることは楽しい」と伝えるため、教育界でご活躍中の豪華ゲストの方々と、教育対談を繰り広げます。 第8回のゲストは、「教育経済学」の専門家、慶應義塾大学教授の中室牧子先生。「教育経済学」とは、データを基に教育の効果を解き明かす学問です。今回の対談でも、世間に流布する、子育てや教育に関する「思い込み」を覆していきます。中編となる今回のテーマは「親の信念が子どもを伸ばす!」です。

子どもの成長を左右する、親の考え方

前編では、子どもにも大人にも有効な「ご褒美」の使い方を教えていただきました。松丸さんは、中室先生の『「学力」の経済学』を読んで気になったところはありますか?

松丸 僕がめちゃくちゃ共感したのは、「才能のせいにすると、本当にそうなってしまう」というデータでした。親御さんから「うちの子はぜんぜん勉強ができなくて、成績が伸びないんです。東大に行きたいって言うんですけど、絶対に無理ですよね」と言われたことがあって。

中室 それはつらいですね……。デンマークで約1500人の小学校2年生の子どもを持つ親に対して行われた取り組みは参考になります。親に対してパンフレットを配ったのですが、その内容は、「現時点の能力によらず、子どもの読み書きの能力は鍛えて伸ばすことができるものだ」というメッセージが繰り返し強調されているものでした。すると、パンフレットを受け取った親の子どもは、3か月後の読み書きのテストの偏差値が2.57も高くなったのです。

松丸 すごいですね! 僕はそのとき、「そういうことは絶対に言わないでください」と伝えたんですけど、当時は根拠がなかったんです。もし、次に同じようなことを言う親御さんに会ったら、『「学力」の経済学』と今日聞いた話をしようと思います(笑)

中室 そのパンフレットでは、「子どもに本の内容を要約させたり、本の内容に関して質問をするなどの工夫を通じて、子どもが自発的に本を読む習慣を身に付けられるように仕向ける」ことが書かれていました。また、「子どもの読み書きの正確さやスピードを褒めるのではなく、本を読むという行為そのものを褒めてあげることの重要性」も強調されました。この実験は、つまり親の子育ての考え方が子どもにどれほど重要かということを表していると思うんですよね。

松丸 それはすごいですね! うちは、母親も父親も子どもが馬鹿にされるとめちゃくちゃ怒る親だったんですよ。それがすごく嬉しくて。子どもからすると、親からの信頼が最後のセーフティーネットだと思うんですよね。いちばん長い時間を過ごす相手から、お前は可能性がないって言われたら、きついじゃないですか。

中室 本当にそうですよね。このパンフレットの実験では、親の学歴が低い子どもほど効果が大きいという結果になっていました。子どもたちの読み書きの能力を全体的に底上げすることに成功しただけでなく、教育格差を縮小することにも成功したことになります。

東大生も東大の教授もゲーム好きが多い

松丸 先生の本のなかで紹介されていたゲームについての話は、読んでいてスカッとしました。世間では「ゲームをやると頭が悪くなる」と言われているけど、1日1時間程度のゲームの影響はまったくやらない場合と変わりないんですよね。

中室 はい。ちなみに、1時間のゲームをやめさせたとしても、学習時間は男子が1.86分、女子は2.7分しか増加しないと明らかにされています。最近では、17歳以上を対象とするようなロールプレイングゲームなど複雑なゲームは、創造性や忍耐力、IQを高めるという研究もありますよ。

松丸 あくまでも僕の周りの話だから偏っていると思いますけど、実際、東大で僕の周りの学生はゲームがめちゃくちゃ上手かったり、ゲーム文化についてすごく理解が深い子が多いです。

中室 大学の研究者の中にもゲームが好きな人は多い印象です(笑)。

松丸 成長のきっかけになるようなゲームは子どもがやってもいいと思うんです。課金すれば勝てるようなゲームはおすすめしませんけど、どうすれば相手に勝つことができるかとか、今のプレーの悪かった部分はどこかって反省して、攻略法を考えるゲームは学びになります。僕は音楽ゲームにハマっていたんですが、1プレイ3〜4分をくりかえすので、短時間で何回も、どうやったら勝てるのかを考えることになるんですよね。それが勉強にも応用できていたと思います。

中室 実際に、ゲームやアプリを学習に応用する流れも生まれています。日本の教育現場では、新しいテクノロジーに対して警戒心が強いのですが、タブレットとアプリを使った学習には、ひとりひとりの子どもの理解度や進度に合わせた、個別最適化学習のポテンシャルを感じる例が少なくないですね。

非認知能力を育む場としての学校

松丸 僕は子どもの頃から、そもそもクラスのひとりひとりは得意不得意も理解度も違うのに、みんなで同じ授業を受けるのはなんでだろうと思っていたんです。今後、科目学習についてはタブレットやAIなどを使った学習がどんどん進化して個別最適化されていくんでしょうか?

中室 平均値の子どもに合わせた内容を一斉授業で行う現状では、すごくできる子も、課題のある子も取りこぼされてしまいます。その状況は変える必要があると思いますね。とはいえ、学校には科目学習を習得する以外に大切な役割があって、集団生活を通して自分と異なる人の意見を聞き、交流することで非認知的なスキルを身につけられる。だから、これまで通り集団生活をしつつも、各々の特性に合わせて能力を高められるような仕組みが求められます。

松丸 いわゆる成績的な頭の良さ=認知能力と、意欲やコミュニケーション能力といった人間性=非認知能力ですね。先生の本に書かれていた非認知能力の重要性も、とても印象的でした。子どもの頃に身に着けた非認知能力が大人になってからの収入や仕事にも影響するという話でしたね。

中室 ハーバード大学のデビッド・デミング教授は、調整、交渉、説得などを行う「対人関係能力」は、2000年代の労働市場において特に重要になってきていることを指摘しています。1990年代以前と比較すると、2000年代のほうが「高い対人関係能力を必要とする仕事」が12%ポイント増加したのに対し、「高い認知能力を必要とするが低い対人関係能力でよいという仕事」は3%ポイント低下したことを示したんです。

松丸 これからの学校は、人間しか教えられない非認知能力創造性を育む場として役割が変わってくるのかもしれませんね。

後編へつづく

対談の前編はこちら

「ご褒美をうまく使えば子どもの学力もアップする!」【松丸亮吾さん教育対談】中室牧子先生
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記事監修

中室牧子|慶應義塾大学 総合政策学部教授/東京財団政策研究所研究主幹
慶應義塾大学卒業後、米ニューヨーク市のコロンビア大学で博士号を取得(Ph.D)。日本銀行や世界銀行での実務経験を経て2013年から慶應義塾大学総合政策学部准教授に就任、2019年より同学部教授。2021年より独立行政法人東京財団政策研究所研究主幹も務める。専門は教育を経済学的な手法で分析する「教育経済学」。著書に、30万部突破のベストセラー『「学力」の経済学』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、共著に『「原因と結果」の経済学データから真実を見抜く思考法』(ダイヤモンド社)がある。

記事監修

松丸亮吾|謎解きクリエイター

東京大学に入学後、謎解きサークルの代表として団体を急成長させ、イベント・放送・ゲーム・書籍・教育など、様々な分野で一大ブームを巻き起こしている謎解きの仕掛け人。現在は東大発の謎解きクリエイター集団RIDDLER()を立ち上げ、仲間とともに様々なメディアに謎解きを仕掛けている。監修書籍に、『東大ナゾトレ』シリーズ(扶桑社)、『東大松丸式ナゾトキスクール』『東大松丸式 名探偵コナンナゾトキ探偵団』(小学館)『頭をつかう新習慣ナゾときタイム』(NHK出版)、など多数の謎解き本を手がける。

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取材・文/川内イオ 写真/藤岡雅樹(本誌) ヘアメイク(松丸)/大室愛 スタイリング(松丸)/飯村友梨

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