生物濃縮とは? その仕組みや人への影響・対策などを詳しく解説します

大気汚染や水質汚染、温室効果ガスの排出など、人類の活動が地球環境に悪影響をもたらす事例は後を絶ちません。生物濃縮もその一つで、生態系への深刻な影響が懸念されています。生物濃縮が起こる仕組みや過去の事例、今後の対策について解説します。

生物濃縮とは?

生物濃縮とは、どのような現象を指すのでしょうか。言葉の意味と、生物濃縮がもたらす影響の具体例を見ていきましょう。

生物の体内に特定の物質が蓄積されること

生物濃縮とは、特定の物質が生物の体内に高濃度で蓄積される現象や、その過程のことです。基本的に、生物が餌や水から取り入れる物質のほとんどは生きるために使われ、老廃物や不要な物質は体外に排出されます。

しかし、不要物質の中には分解や排出ができず、そのままの状態で体内に残ってしまうものがあります。不要物質が残っている生物を他の生物が食べても、やはりその物質は分解も排出もされません。

自然環境にこのような物質が紛れ込むと、やがて周辺で生息する生物の体内にも蓄積され、生物濃縮が起こるのです。

生物濃縮の影響

不要な物質が体内に残っている状態は、決して良いこととはいえません。実際に、生物濃縮は生物の健康にさまざまな影響を及ぼしています。

1956年に熊本県水俣湾周辺で発生した「水俣病(みなまたびょう)」は、生物濃縮が引き起こした病気として有名です。工場が水銀を含む廃水を海に流したために、周辺の魚介類の間で生物濃縮が起こり、その魚介類を食べた人に中毒症状が表れました。

フグや貝の毒も、プランクトンに含まれる有毒成分が生物濃縮したものと考えられています。近年は、海洋に流出したマイクロプラスチックが生物濃縮を引き起こす可能性が高いとして、問題視されています。

生物濃縮の仕組み

生物濃縮はどのようにして起こるのでしょうか。仕組みと濃縮される物質の種類を見ていきましょう。

食物連鎖により生物濃縮が起こる

生物濃縮のしくみ。食物連載の中で有害物質が濃縮されていく。

生物濃縮は、食物連鎖によって起こります。濃縮される物質の多くは、最初は空気中や水中を漂っていて、プランクトンのような小さな生物に取り込まれます。このときはまだ、不要物質の濃度はそれほど高くありません。

しかし、そのプランクトンを他の生物が大量に捕食した場合、捕食した生物の体内には食べたプランクトンの数だけ不要物質がたまっていきます。

その生物がもっと上位の生物に捕食されると、上位の生物にはさらに多くの不要物質がたまります。こうして食物連鎖の上位であればあるほど不要物質の蓄積量が増え、濃度が高くなっていくのが生物濃縮の仕組みです。

濃縮される物質

生物濃縮は、どのような物質で起こるのでしょうか。フグ毒や貝毒の原因としては、海中の藻類が生み出す臭素やヨウ素、クロムなどが知られています。

他には「POPs(ポップス)」と呼ばれる化学物質や、マイクロプラスチックがあります。POPsとは「残留性有機汚染物質」のことで、ダイオキシン類やPCB(ポリ塩化ビフェニル)、DDT(ジクロロジフェニルトリクロロエタン)などが代表的です。PCBは工場やビルの電気設備に、DDTは殺虫剤や農薬として使用されていました。

また、プラスチックには有害な物質を吸着する性質があります。そのため、マイクロプラスチックが水や餌とともに生物の体内に取り込まれることで、生物濃縮が起こる可能性が高まるといわれています。

POPs条約で取り締まりが行われている

生物濃縮は、地球に住むすべての生物にとって深刻な問題です。そのため、国際的な協力のもとで生物濃縮の発生を防ぐ取り組みが進んでいます。

2004年には「POPs条約(残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約)」が発効され、加盟国はPOPsの製造中止や使用規制、廃棄物適正処理に努めることが決まりました。

当初は日本を含めて50カ国だった加盟国は、2020年3月には181カ国及びEUとパレスチナ自治区にまで増えています。世界規模でPOPsの規制や管理が実施されていると考えてよいでしょう。

生物濃縮を防ぐために個人でできることは?

POPs条約の効力もあり、生物濃縮を起こしていた有害物質が、自然界に流出する心配はほぼなくなりました。しかし、私たち人類の行動が、今後も新たな生物濃縮の原因となる可能性は否定できません。生物濃縮を防ぐために、個人でできることを紹介します。

環境に配慮した製品を選ぶ

生物濃縮は、自然界で分解されない化学物質が、空気中や水中に流出することで起こります。生物濃縮を防ぐためには、一人ひとりが意識して化学物質の使用・廃棄の機会を減らしていくことが重要です。

モノを買うときには価格ばかりを見るのではなく、成分やリサイクルの可否をチェックして、環境に優しい製品を選ぶ習慣をつけましょう。私たち消費者の行動がメーカーや販売業者を動かし、環境に配慮した製品が増えていく効果も期待できます。

ゴミはルールを守って処分する

新たな生物濃縮を起こさせないためには、マイクロプラスチックを減らす取り組みも有効です。プラスチック製品を捨てる際は、自治体の処分ルールをしっかりと守りましょう。

以下のような、プラスチックゴミそのものを減らす行動もおすすめです。

・買い物にマイバッグを持参する
・外出時には水筒を持参し、ペットボトル飲料を買わない
・洗剤やシャンプーは詰め替え可能なタイプを使う

機会があれば、子どもと一緒に海岸や河原のゴミ拾いに参加してもよいでしょう。汚染の現状を実際に見ることで、生物濃縮を含む環境問題への関心を高められるかもしれません。

生物濃縮は知っておきたい環境問題の一つ

生物濃縮は食物連鎖によって有毒な物質が生物の体内に蓄積され、高濃度になる現象です。濃度が高いほど体に及ぼす害が大きくなり、人類のように食物連鎖の上位にいる生物が命を落とすこともあります。

とはいえ、生物濃縮を起こす物質のほとんどは、人類が自然界に放出したものです。そのため、人類には再び生物濃縮が起こらないよう、有害物質を適切に管理する責任があるのです。

子どもたちにも生物濃縮の仕組みや環境汚染の現状を説明し、未来の地球を守る気持ちを育んであげましょう。

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構成・文/HugKum編集部

今回の記事で取り組んだのはコレ!

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