目標10「人や国の不平等をなくそう」
SDGs(持続可能な開発目標)は、2015年の国連サミットで採択された国際目標です。17の目標と169のターゲットが掲げられ、途上国と先進国が協力して課題解決に取り組むことの重要性を示しています。「人や国の不平等をなくそう」は、SDGsの10番目の目標です。
あらゆる国に存在する不平等
目標10は「各国内及び各国間の不平等を是正する」がテーマです。年齢・性別・人種・民族・宗教・所得などを原因とした理不尽な不平等は、世界中に存在しています。
不平等は自尊心を傷つけるだけでなく、就業の機会を奪い、重要なリソースへのアクセスを制限しかねません。医療や福祉といった「生きる上での基本的なサービス」が享受できなければ、健康や寿命にも影響が及ぶでしょう。
差別で学びの機会が制限されて「人間開発」がおろそかになれば、国の経済成長も妨げられます。政府が解決策を見出せない場合は、人々の不安や不満が募り、暴動や争いに発展するかもしれません。
参考:JAPAN SDGs Action Platform | 外務省
世界経済は先進国に有利
目標10が定められた背景の一つに、「国家間での不平等」が解消されていないことが挙げられます。現在の世界経済は、「先進国」や「大国」に有利な状況です。
途上国が自由貿易で利益を得るには、賃金を抑え、安価な製品を大量に輸出する必要があります。しかし、先進国は輸入品に高い関税をかけることができるため、途上国は自由貿易の恩恵が享受できません。「先進国に有利なルール」を撤廃しなければ、途上国に豊かさはもたらされないでしょう。
また現在の国連では、アメリカ・中国・ロシア・イギリス・フランスのみが拒否権を有しています。安全保障理事会の常任国も5カ国で、1945年の発足時からメンバーが変わっていません。世界の国々からは、安保理の改革を求める声が上がっています。
国内での格差も拡大
多くの国では、性別・民族・人種・宗教・性的指向などに起因する不平等や差別が問題となっています。移民が多い国では社会制度上、自国民と移民を区別するケースがあり、同じ国に住んでいるにもかかわらず、社会的に分離され、公的サービスへのアクセスや就業が制限されるのは不公平と言わざるを得ません。
日本には、政治・経済・教育などにおける「ジェンダー格差」が存在します。大都市と地方との「経済格差」や、正規雇用と非正規雇用の「所得格差」も深刻な問題です。
国際社会が示す解決策や取り組みは?
不平等な世界を変えるには、大きな改革が必要です。国際社会では、国家間や国内での不平等をなくすためにさまざまな取り組みを行っています。取り組みの一例を紹介しましょう。
途上国への優遇措置
目標10では、「各国の国家計画やプログラムに従い、後発開発途上国やアフリカ諸国などに、政府開発援助(ODA)や海外直接投資を含む資金の流入を促進する(10.b)」というターゲットを示しています。
ODAとは、開発途上地域の開発を主な目的とする公的資金のことです。日本を含む先進国では、資金援助によって途上国の発展を手助けしています。
貿易面では「一般特恵関税制度」を設け、途上国を支援しています。本制度は、途上国からの一定の輸入品に通常よりも低い関税を適用するのが特徴です。2021年4月1日時点では、127カ国5地域が特恵受益国の指定を受けています。
参考:
(ODA) 開発協力,ODAって何だろう | 外務省
特恵関税制度|外務省
海外送金コストの引き下げ
目標10には、「2030年までに、移住労働者による送金コストを3%未満に引き下げ、5%を越える送金経路を撤廃する(10.c)」というターゲットがあります。
送金コストとは、主に個人が海外に送金する際にかかる「送金手数料」のことです。送金チャネルは国によって異なりますが、手数料は送金額の7%ほどに達していると推測されています。
低所得者層にとって、送金コストは大きな負担です。国連では各国政府や金融機関に対して、手数料の引き下げを呼びかけています。
近年は大手IT企業によって、銀行を介さずにボーダレスなお金のやりとりができる「電子決済アプリ」が開発されており、送金問題の解決に一役買っているようです。
差別解消に向けた法の整備
目標10では、「差別的な法律や政策及び慣行の撤廃、適切な関連法規・政策・行動の促進を通じて、機会均等を確保する(10.3)」というターゲットが設定されました。
各国で法の整備が進む中、日本でもさまざまな法律や政策の見直しが行われています。2016年には、障がいを理由とする差別の禁止が盛り込まれた「障害者差別解消法」が制定されました。
雇用の分野においては、男女間の不平等をなくす「男女雇用機会均等法」や、雇用形態の違いによる待遇差を是正する「同一労働同一賃金制度」が施行されています。
参考:
障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律 – 内閣府
雇用における男女の均等な機会と待遇の確保のために |厚生労働省
同一労働同一賃金特集ページ |厚生労働省
日本が抱える目標10達成への課題
日本はアジア諸国の中でもジェンダー格差が大きく、男女平等に至るまでには長い時間がかかると見られています。また、国内での所得格差や子どもの貧困、マイノリティーへの差別など、不平等に関連する課題も山積みであるのが現状です。
社会に根強く残る「ジェンダー格差」
日本社会には性別に基づく「ジェンダー格差(男女格差)」が根強く残っています。世界経済フォーラムが公表した「ジェンダー・ギャップ指数2021」によると、日本は156カ国中120位で、他国と比較しても男女格差が大きいことが浮き彫りになりました。
男女共同参画推進本部のデータによると、2019年度の非正規雇用の割合は男性が22.8%、女性が56.0%です。女性の非正規雇用は男性の約2.5倍で、「低賃金で不安定」「キャリアアップがしにくい」という現実が窺えるでしょう。
女性の非正規雇用が多いのは、家庭内での「女性の役割」が影響している可能性があります。日本では「家事や育児は女性の仕事」という考えが根強く、子どもが生まれると職場を退職する人が少なくありません。
参考:
Global Gender Gap Report 2021 | 世界経済フォーラム
パンフレット「ひとりひとりが幸せな社会のために ~令和2年版データ~」 | 内閣府男女共同参画局
将来に影響を及ぼす「子どもの貧困」
収入が「等価可処分所得の中央値の半分」に満たない世帯は、「相対的貧困」と呼ばれます。とりわけ、非正規雇用やパート雇用に頼るシングルマザーの世帯では、「子どもの貧困」が大きな問題です。
十分な食事ができない子どももいれば、ダブルワークで帰宅が遅くなる親に代わり下の子の面倒を見る子どももいます。経済的な理由で進学を諦めれば、将来、高収入の仕事に就きづらくなる可能性が高くなるでしょう。
親から子、子からそのまた子へ貧困は連鎖します。政府は生活支援や経済的支援を行うと同時に、「子どもの教育格差」を是正する取り組みにも力を注がなければなりません。
差別に苦しむ「マイノリティー」
障がい者やLGBT、在日外国人などの「マイノリティー」への差別をなくすことも日本の課題です。障がい者総合研究所の調べによると、2016年に施行された障害者差別解消法が「社会に浸透していない」と感じる障がい者は、92%にも上っています。
性的少数者に対する偏見も多く、本人の了承なしに性的指向や性自認を暴露される「アウティング」に悩む人も少なくありません。
人種・民族差別を解消する法律としては、2016年に「ヘイトスピーチ解消法」が施行されました。しかし、在日コリアンに対するヘイトスピーチは根絶されておらず、近年はネット上での差別的な書き込みが問題となっています。
参考:障がい者に対する差別・偏見に関する調査|障がい者総合研究所
不平等をなくすために個人ができること
国や政府が政策を打ち出しても、社会を形成している一人一人の意識が変わらなければ、不平等や差別はなくなりません。目標10を達成するために、私たち個人は何をすればよいのでしょうか?
フェアトレード商品の購入
海外に原料や製品を安く輸出する途上国では、正当な対価が生産者に支払われていないケースがあります。「フェアトレード」とは、途上国の原料や製品を適正価格で購入することで、生産者や労働者の自立を支援する「公平・公正な貿易の仕組み」です。
認証ラベルが付いた商品を購入すれば、生産者の労働環境や生活水準の改善につながります。コーヒー・チョコレート・スパイス・ハチミツ・生鮮果物・ナッツなどが、代表的なフェアトレード製品です。
参考:フェアトレードジャパン|fairtrade japan|公式サイト
イベントやボランティアへの参加
手話・要約筆記・点訳・音訳などが学べる地域の活動に参加すれば、聴覚や視覚に障がいを持った人への理解が進みます。地域のイベントやボランティアに参加して、さまざまな人との交流を深めるのもよいでしょう。
国際交流のイベントに参加したり、ホストファミリーとして外国人を受け入れたりすることも、他民族の理解や差別解消の手助けとなります。自分と異なる文化・価値観・風習に触れ、互いを認め合うことができれば、違いを理由とする理不尽な差別はなくなるはずです。
違いを認め合う心が大事
日本に住む私たちは貧困や差別、不平等を感じる機会はあまりないかもしれません。しかし世界から見れば、日本はジェンダー格差が大きい上に、障がい者や在日外国人、LGBTへの理解があまり進んでいない国なのです。
世界から不平等をなくさなければ、「誰一人取り残さない」というSDGsの誓いは実現できません。まずは相手を知り、違いを認めるところから始めてみましょう。
構成/Hugkum編集部