文字通り「文字の本」を読んでほしい…。雑誌ではなくマンガではなく…「本」を読む子に!
こう考える親御さん、けっこういるようです。ご安心あれ~! ノンフィクションライタ-須藤みかさんの好評連載14回目は、マンガ好きから一転、大の読書家に変貌した女の子の変遷記ですよ。
「マンガしか読まないなぁと思っていたのに、いつの間にか本好きになっていたんですよね」
そう話すのは、愛知県の公立小学校に通う6年生の母、マイさん。
ぜひくわしく聞いてみたいと、マイさん母子を訪ねた。
雨の日の休日。名古屋市から電車で11分の岩倉市。改札を出ると、マイさんと娘のチィちゃんがぴったりくっつくように待っていてくれた。
目次
自宅以外に2つの本棚がある!?? 1つ目は駅前に(^-^)
「うちには小さな本棚しかないので、娘にとっての2つの本棚を見てほしいなと思って」
マイさんがまず連れて行ってくれたのは、駅前の本屋さん。ショーウィンドウにはたくさんの絵本が飾られていた。チィちゃんは毎月、ここに女児向けマンガ雑誌『ちゃお』を買いに来る。母子ともに店長さんとは顔見知りだというが、なぜここがチィちゃんの本棚?
「2年前の夏休み前に この本屋さんへ来て、雑談をしながら店長さんに『4年生なんですけど、何かいい本はないですか』と聞いたんです。そうしたら店長さんが勧めてくれた本があって・・・。あっという間に読んでしまったのよね」
マイさんがそう言いながら隣を見ると、チィちゃんがうなずく。それまで公共図書館や学校で借りてくる本と言えば、歴史や偉人などを描いた学習漫画一辺倒。漫画を読む姿しか見ていなかったので、マイさんは驚いた。
何の本だったの?
きっかけの本との出会いは奇跡的? 主人公の年齢も自分に重なった…
「『くちぶえ番長』です。おもしろかったです」と、チィちゃん。
「続けて私も読んで、感動しました。内容、おすすめしてもらったタイミング、本屋さんとの関係、と、すべてがうまく重なって、奇跡的でした!」
とマイさんが言えば、すすめてくれた本屋さんの店長さんも、
「小学4年生の女の子が出てきますからね。お母さんに読んでほしいという思いもありました」。
『くちぶえ番長』は、「わたし、この学校の番長になる」と転校早々に宣言した小4の女の子と、学級委員の男の子の友情物語だ。月刊誌『小学四年生』(小学館:現在は休刊)に連載していただけに、重松清さんの本のなかでもとりわけ読み進めやすい文章だ。しかし、いきなり『くちぶえ番長』とは! マイさんが驚いたのもうなずける。
マンガから『くちぶえ番長』かぁ。チィちゃんに、なにがあった? 想像をめぐらしているうちに、「もうひとつの本棚」があるというマイさんの実家に到着した。
もうひとつの本棚は祖父母宅!小学3年生から増幅中
リビングには、ガラス戸つきの大きな本棚。芥川龍之介全集や灰谷健次郎全集に混じって、150冊近くチィちゃんの本が並んでいた。
いつ頃から本が増えていったの?
「うーん、いつからだろう…。4年生? ううん、3年生の時かなぁ、風邪かインフルエンザで学校を休んで、おばあちゃんちにいた時に、叔母さんが本を買ってきてくれました」
マイさん一家は共働き。長期休みや体調が悪い時、チィちゃんはおじいちゃん、おばあちゃんの家で過ごすこともある。チィちゃんが寝込んでいたその日、顔を出したマイさんの妹が、つまらなそうな姿を見かねて本を手渡した。それが、『探偵チームKZ事件ノート 妖怪パソコンは知っている』。
そこから、『探偵チームKZ事件ノート』シリーズを読み進めていく。さらに、『黒魔女さんが通る!!』シリーズや『トキメキ♥図書館』シリーズへ。そのうち続編が出ると、おばあちゃんがいつの間にかそっと買っておいてくれるように。
「そう言えば、『ぼくらの七日間戦争』も『ナミヤ雑貨店の奇蹟』も『ざんねんないきもの事典』も知らないうちにおばあちゃんが買ってくれていました」
聞けば、おばあちゃんも子どもの頃、大の本好きだった。県の読書感想文コンクールで1位をとったこともあるのだとか。チィちゃんの好みや関心事にあわせて、おばあちゃんがその都度、本を用意してくれていたのだ。さりげなく。
そんなおばあちゃんに読み聞かせしてもらったマイさんは、もちろん本好き。マイさんは働きながらも、読み聞かせのボランティアも続けている。さぞかし、家庭でも熱心に読み聞かせしたのでは?
熱心に読み聞かせをしなかったのが幸いした?
「働き始める前の、この子が2才頃までは、子育ての集まりや地域の方が開くおはなし会などには参加していました。でも、家ではそれほど熱心に読み聞かせしていたわけではありません。
娘も特別に絵本が大好きというわけではなくて、歌やリズム遊びも好きだし、絵本も好きという程度だったと思います。私も、この本を読んだら、とか勧めたりしたことはほとんどなかったですね」
と、マイさんは振り返る。
意外だったが、それがよかったのかも。「親に勧められてもねぇ…」と、チィちゃんもポツリ。
親から押し付けられることもなく、親の思惑を感じることもなく、自由に本を読むことができた。
チィちゃんは低学年のころから、学習漫画が大好き。『名探偵コナン』シリーズ、『ドラえもん』シリーズ、『ひみつ』シリーズと読み続けた。ところが、ここ数年、小学生の間で大人気の『サバイバル』シリーズは読んでいないという。
「みんなが読むから、図書館ではいつも貸し出し中、誰かが借りているんです。私は自分のペースで読んでいきたいから、別に読まなくてもいいかな」
そのかわり、おもしろいと思えばなんでも読む。
「低学年のころは活字を読むという感覚がなくて、3年生くらいまでは活字慣れしていなかったのかなぁ。文字ばっかりだから読まなかったわけじゃないです」
と、チィちゃん。たまたま、おもしろいと思う活字本に出会ってなかっただけね。
今も、学習漫画は大好き。昨日読んだのは、『木戸孝允』。そうかと思えば、ついこの前までは、『怪談五分間の恐怖』シリーズにハマっていた。
本が身近に存在する環境はサンタさんからも!?
チィちゃんは生まれた時から、周囲から本をプレゼントされることが多かった。おじいちゃんやおばあちゃんだけでなく、マイさんの友人、知人からも。マイさんも、時々贈ってきた。
本はいつも身近にあったのだ。親以外の大人も本を手渡してくれていた。そして、サンタさんも。
サンタさんへお願いするクリスマスプレゼントは、2年前から本になった。去年は、ドラマ化された『校閲ガール』を頼んだ。1冊だけかと思ったら、3巻そろって届いて嬉しかった。
今年もドラマ化された原作を頼むつもりだ。目下、コミックの『トクサツガガガ』にするか、書籍の『これは経費で落ちません』にするかで悩んでいる。
「サンタさんって、信じなくなったら来なくなるんでしょ? だから、信じてる。どっちもシリーズ本だけど、サンタさんはシリーズ全部、プレゼントしてくれるかなぁ」
マイさんを横目で見ながら、チィちゃんが笑った。
追記
チィちゃんに『くちぶえ番長』を勧めたのは、愛知県市倉市にある「BOOK RESTAURANT やまねこ亭」の大岸徹店長。
4年前に現在の駅前に移転。85坪あった売り場は、10坪になった。学習参考書やコミックはなくなったが、店長がおすすめしたい本ばかりになった。小さな店舗ながら、子ども向けの棚はたっぷりある。
定期配本サービスを頼んでいた児童書専門店が閉店したことから、毎月の選書を頼むようになったお母さん。お盆とお正月の年に2回、お孫さんに本を贈ってほしいと、名古屋からやってきてお金を置いて行く女性…。大岸店長の選書眼を頼る人たちがいる。
チィちゃんには去年、重松清の『小学五年生』を勧めたという。「今年は、『モモ』を読んでほしいな」。
チィちゃんが夢中な本はこれ
◆ハマっていた(いる)のは…
月刊『ちゃお』(小学館)
『くちぶえ番長』著/重松清著 新潮文庫
原作/藤本ひとみ 文/住滝良 絵/駒形 講談社青い鳥文庫
『黒魔女さんが通る』シリーズ 作/石崎洋司 絵/藤田香 講談社青い鳥文庫
『トキメキ♥図書館』シリーズ 作/服部千春、絵/ほおのきソラ 講談社青い鳥文庫
『ぼくらの七日間戦争』作/宗田理 絵/はしもとしん 角川つばさ文庫
『ナミヤ雑貨店の奇蹟』作/東野圭吾 絵/よん 角川つばさ文庫
『ざんねんないきもの事典』監修/今泉忠明 絵/下間文、徳永明子、かわむらふゆみ、高橋書店
『怪談5分間の恐怖』著/中村まさみ 金の星社
◆大好きな学習マンガ
『名探偵コナン』学習漫画シリーズ 原作/青山剛昌 小学館
『ドラえもん』学習シリーズ キャラクター原作/藤子・F・不二雄 小学館
『学研まんが ひみつシリーズ』学研
『学習まんが人物館 木戸孝允』 監修/落合弘樹 まんが/坂倉彩子 小学館
◆ドラマ化がきっかけで読んだ(読みたい)本
『校閲ガール』著/宮木あやこ 角川文庫
『トクサツガガガ』作/丹羽庭 小学館
『これは経費で落ちません』著/青木祐子 集英社オレンジ文庫
『小学五年生』著/重松清 文春文庫
『モモ』作/ミヒャエル・エンデ 訳/大島かおり 岩波少年文庫
◆幼少期によく読んだ本
『ギャロップ!!』さく/ルーファス・バトラー・セダー やく/たにゆき 大日本絵画
『ぼちぼちいこか』さく/マイク・セイラー え/ロバート・グロスマン やく/いまえよしとも 偕成社
『くっついた』作・絵/三浦太郎 こぐま社
『いないいないばあ』作/松谷みよこ 絵/瀬川康男 童心社
『どんぐりむらのぱんやさん』さく/なかやみわ 学研教育出版
『あいうえおうさま』文/寺村輝夫 絵/和歌山静子 デザイン/松浦範茂 理論社
『ぶたさんちのひなまつり』作・絵/板橋敦子 ひさかたチャイルド
『まいにちまいにちたんじょうび』作・絵/正高もとこ 偕成社
取材・文/須藤みか
ノンフィクションライター。長く暮らした中国上海から大阪に拠点を移し、ライターとして活動中。現在は、「子どもと本」「学童保育」など子どもの育みをテーマにしたものや、「大阪」「在日中国人」「がん患者の就労」について取材中。東洋経済オンラインなどに執筆している。著書に『上海ジャパニーズ』(講談社+α文庫)他。2009年、『エンブリオロジスト 受精卵を育む人たち』で第16回小学館ノンフィクション大賞受賞。地元の図書館や小学校で読み聞かせやブックトークも行っている。JPIC読書アドバイザー。小学生男子の母。