「心の友よ~」。ジャイアンのセリフではないけれど、“本は心の友”と堂々宣言する、センパイ女子を発見! 彼女は幼い頃、あるいは小学生時代には何を読んでいたのか? 今も本好きのままでいるとは何が秘策なのか?
ノンフィ クションライター・須藤みかさんが探ります。全国のBOOK LOVERなキッズを訪ねる好評連載第10回です。
小学生の頃は本が大好きだったのに、中学生になると忙しくて本から遠ざかってしまう—– 。これ、よく聞く話だ。
ある中学校の学校図書館司書さんも、言っていた。
「生徒たちは、部活に勉強にと、ほんとに忙しくて、帰宅後に本を読む時間など、ないんです。だから学校で本を読ませる工夫をしていくしかない」。
ところが……。
目次
5分しかなくても、図書館に行きたい!?
「本は“心の友”。私の空気みたいなもの」。
こう口にする中1女子がいる。
ハルちゃん。学校ではバスケ部に所属する。
17時に閉まる図書館に今から行っても5分しかいられない…。そんな時でも、時間ができれば自転車で駆けていくほどの本好きだ。
「大層な本は読んでいないと思うんですが、とにかく本に没頭していますね。ごはんの時間でも、食卓が整う少しの合間にもページをめくっていて、時間を見つけては本を読んでいます」(母のアズさん)
困った!勉強しないで読書ばかり。でもこの対抗策が奏効かも?
母のアズさんは、さらにこう続ける。
「自分の部屋に本を持っていくと、勉強せずに本を読んでしまうんです。だから、我が家では“本はリビングで読む”というルールにしています」
地域の図書館で借りられるのは、10冊。そのうち、2冊は幼稚園児の弟のために絵本を借りてくるやさしいお姉ちゃんでもある。
ハルちゃんが、寸暇を惜しんで本を読むようになったのは、なぜだろう?
アズさんと話すうちに、本好きが長続きするワケが見えてきた。
◎1 やっぱり本棚はリビングにあった!
アズさんの夫、ゴウさんは転勤族。ハルちゃんは小学校時代、3回引っ越しをしているが、どの家でも、いつも本棚はリビングに置かれていた。
◎2 図書館が身近にあった!
「九州に転勤した時は、その前に住んでいたところは図書館まで徒歩15分だったので、
物件を選ぶ時に、図書館が近いところを意識しました。
県立図書館も市立図書館も近くにあって、県立では50冊を3週間、市立でも20冊を2週間、借りることができる環境でした」(アズさん)。
今は、自転車で10分の距離にある。物理的な距離もさることながら、小さい時からいつもアズさんやゴウさんが図書館に連れて行っていた。だから図書館は身近な場所になっていった。
◎3 本好きの友達がいた!
ハルちゃんに、小学生時代に夢中になった本を書き出してもらった。
小学生時代に夢中になった本。
低学年
『わかったさんシリーズ』 作/寺村 輝夫 絵/永井 郁子 あかね書房
『きょうはなんのひ』作/瀬田貞二 絵/林 明子 福音館書店
『びゅんびゅんごまがまわったら』作/宮川ひろ、絵/林明子、童心社
『どんぐりむらのパンやさん』さく/なかやみわ 学研教育出版
中学年
『ルルとララ』シリーズ 作/あんびるやすこ 岩崎書店
『サバイバル』シリーズ 文/洪在徹絵/李泰虎 朝日新聞出版
高学年
『動物とはなせる少女リリアーネ』作/シリーズタニヤ・シュテーブナー 訳/中村智子、本文イラスト/佐々木メエ、学研プラス
『若おかみは小学生』シリーズ 作/令丈ヒロ子 絵/亜沙美 講談社
『魔女の宅急便』シリーズ 作/角野栄子 絵/佐竹美保 福音館書店
『大草原の小さな家』シリーズ 作/ローラ=インガルス=ワイルダー 訳/こだまともこ、渡辺南都子 絵/かみやしん 講談社
『水族館ガール』シリーズ 著/木宮条太郎 実業之日本社
中学年で夢中になった『ルルとララ』シリーズは、「おもしろいよ」と友達が勧めてくれた。アズさんによれば、「リストにはないですが、『つるばら村』シリーズも中学年の頃、よく読んでいました。それも友達に教えてもらったのだと思います」。
ある一定の年齢になると、親の言うことよりも、友達の言葉のほうが大切になってくる。ハルちゃんが一番好きだという『動物と話せる少女リリアーネ』も、友達推薦だ。
「紹介してもらったのは小学3年生ですが、その時は字が小さくて読む気がしなかったようです。でも、九州に引っ越した5年生の時に読んでいました。東京の友達が懐かしかったこともあったと思います」
食べ物には食べ頃や賞味期限があるけれど、本には読み頃も賞味期限もない。子どもによっても違う。ハルちゃんにとって、『動物と話せる少女リリアーネ』は2年後だった。紹介されたその時に読まなくても、子どもの心には本の種は蒔かれているのだ。
◎4 親が子どもの頃、読んだ本を勧めてた!
一定の年齢になったら親の言うことはだんだん聞かなくなるものの、さりげなく勧めることはできる。
ハルちゃんが高学年で読んだ『大草原の小さな家』は、アズさんが子どもの頃、大好きだった本。『魔女の宅急便』も、テレビで映画が放映された時に、「原作があるんだよ。映画の続きの物語があるんだよ」と伝えたそう。
子どもたちが知らない本の情報を伝えられるのは、親だからこそできることだ。
◎5 効果抜群。親以外の大人のおすすめ!
先に紹介したリストにもあるように、高学年で動物がらみの本が多いのは、ハルちゃんが動物好きだから。将来の夢はイルカのトレーナーだ。
『水族館ガール』は6年生の時に、くもんの先生をしていた大学生がハルちゃんの夢を知って教えてくれた。
同書は今も続編が出版中で、ハルちゃんの愛読書だ。
◎6 お父さんも読み聞かせをしていた!
アズさんも読み聞かせはしてきたが、どちらかというとメインはゴウさんだったそう。
「夫は、子どもが読んでと持って来た本は時間があれば読んでいました。私が読むのは、夫が仕事でいない時などです」
聞けば、絵本の読み聞かせだけでなく、素話もしていたそう。素話とは、語り手が覚えたおはなしを子どもたちに語って聞かせるもの。ストーリーテリングとも言われる。お父さんが素話とは、初耳!
「何度も昔話を読んでいると話を覚えてしまうみたいで、寝る前のおはなしとして部屋を暗くして聞かせていました。あわよくば寝てくれたらと思ってしていたんじゃないかと思います。でも、子どもたちは楽しくて、そう簡単には寝ないんですよね(笑)。ハルは『ないたあかおに』が好きでした」
そのゴウさんに話を向けると、「自分が小さかった頃、たまに父が寝かしつけてくれた際に、話をしてくれたのが、うれしかった記憶があります。昔話の『頭が池』で、頭に生えた柿の木を引き抜いた凹みに池ができるという笑い話です。少し創作して変えたものを話してくれました。毎回同じ話だったのですが、不思議なもので、毎回ワクワクしながら聞いてました」。
そういうことか。楽しさを知っているからこそのゴウさんの素話だった。父から子へ。そしてまた、子へ。ハルちゃんもいつか子どもに素話を聞かせる時が来るのだろうか。
連載第7回の「毎晩のオーディオブック習慣が小2の女の子を本好きに!」でも書いたが、素話は絵本や紙芝居のように視覚に訴えるものがないので、耳で聴きながら子どもたちはイメージをふくらませていく。
ゴウさんの素話がハルちゃんの思考力や想像力を育む一助になっていたようだ。
ハルちゃんが幼小学校時代の愛読書
『ないたあかおに』ぶん/はまだひろすけ え/いけだたつお 偕成社
『まゆとおおきなケーキ』富安 陽子/文降矢 なな/絵福音館書店
『おばけのえんそく』西平 あかね/さく∥福音館書店
『すいかのたね』さく・え/さとうわきこ 福音館書店
『トックリバチのとくこさん』伊藤 知紗/さく福音館書店
『たこのななちゃん』さく・え/なかがわちひろ 徳間書店
『うどんやのたあちゃん』さく/鍋田敬子 福音館書店
『火の鳥』作/手塚治虫 角川文庫
『マレスケの虹』作/森川成美 小峰書店
『ぼくらの最終戦争』作/宗田理 ポプラ社