野球漬け少年も「児童書好き」に。秘策は「耳」にあり!? 【本好きキッズの本棚、見せて見せて!第16回】

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勉強以外の時間は習い事やスポーツに占拠されていて…という家庭は多い。「だから読書なんて我が家は程遠くて~(ため息)」。嘆く気持ち、分かりますッ!
ノンフィクションライター・須藤みかさんが、東京の公立小4年生・野球に明け暮れるけれど読書好きの男の子をキャッチ! 絵本からスムーズに自分で児童書を読むようになった、その経緯を探ります。

イラスト/カラスヤマ ミライ

野球づくしの日々の少年、圧巻の本棚!

『中日ドラゴンズ80年史』『プロ野球12球団春季キャンプの歩き方 2019』『最新一番よくわかる少年野球ルールブック』『耳の聞こえないメジャーリーガー ウィリアム・ホイ』…。
本棚を見ると、その子の熱中しているものが見えてくる。

野球少年の本棚は…。

 

この本棚の持ち主、リュウゾウ君が好きなものは、野球。土日は、朝早くから夕方まで白球を追いかける。所属するのは、プロ野球選手を何人も輩出している強豪チームだ。台風19号の影響でいつも使っていたグラウンドがいまだに使えず、ここのところ埼玉、千葉、群馬での遠征試合が続いている。
お気に入りのチームは、中日ドラゴンズ。この日かぶっていた野球帽には、ドラゴンズのロドリゲス選手や与田監督のサインが。東京での定宿で出待ちをしていた時にサインしてもらったという。

春季キャンプには2年連続、家族で出かけた。

プロ野球チップスおまけのカード。その数、約500枚!

 

「私たち夫婦は特に野球が好きなわけではなかったんですけどね、夫と子どもの誕生月が同じでして、リュウゾウが7才の時に、私から野球観戦をプレゼントしたんです。男同士だから野球、みたいな軽い気持ちでした。ところがその後、何度も父子で野球観戦をし、ずっと『野球をやりたい、やりたい』と言い続けていました。意思が変わらなかったので、地元の軟式野球チームに半年所属した後、今のチームに移ったんです。親戚から、野球をやらせると親が大変だと聞いていたので、絶対にやらせてはいけないと思っていたんですが」
と、母のモトコさんは苦笑い。

ユニフォームは、自分で洗うこと。野球を始める時の約束だ。スライディングした後のユニフォームは、泥まみれになる。大人でも洗うのが億劫になるものだが、リュウゾウ君は約束を守っている。

さて、本の話。

定期購読していた雑誌。今も大切にしまってある。

 

野球関係で言うと、一時期は『週刊ベースボール』も定期購読していた。しかし、そればかり読んでしまうため半年で中止に。今は気が向いた時に、地域の図書館で読んでいるという。

情報源はママ友。小1、2年生で児童書に移行

リュウゾウ君の通う公立小学校は、伝統的に教育熱心な学校区。先生が長期休みの前には、おすすめの本を紹介してくれたり、「学校図書館だより」にも本の情報がたくさん。ママ友の間でも、子どもの本が話題に上がることもあるという。

「読書を推奨する学校ということもあってか、読書好きの友だちが多いです。振り返ると、1年生の時のママ友との情報交換がきっかけで、『チョコレート戦争』『二分間の冒険』『大どろぼうホッツェンプロッツ』などの児童書に移行していきました」

1、2年生まではモトコさんが毎月選んで本を何冊か買っていたが、今はリュウゾウ君が自分で選ぶ。友だちとの貸し借りもよくする。

しかし、一時期、本を読まなくなったことがあった。

読書停滞期。公共図書館のプロに聞いたのがきっかけで再開!

本から離れたのは、3年生の時だった。そこでモトコさんは、職場の近くの公共図書館に行き、3年生におすすめの本はなにかと尋ねたそう。

「分からない時は、プロに聞くのがいちばんですから」。

図書館で勧めてもらった『クロぐみ団は名探偵』シリーズは、リュウゾウ君も喜んで読んだ。

リュウゾウ君におもしろかった本をあげてもらった。

1年生の時は『かいけつゾロリ』シリーズ。
2年生は『サバイバル』シリーズと『びりっかすの神様』『二分間の冒険』『大どろぼうホッツェンプロッツ』。3年生は『空想科学読本』シリーズと、司書さんに紹介された『クロぐみ団は名探偵』シリーズ。

えっ? 低学年で『びりっかすの神様』『二分間の冒険』『大どろぼうホッツェンプロッツ』
1人読みしたのか聞いてみると…。

児童書を初めから1人で読んだわけではない

1人読みではなく、「『びりっかすの神様』『二分間の冒険』は私が何日かかけて読み聞かせしました。でも『大どろぼうホッツェンプロッツ』は1人で読んでいましたね」と、モトコさん。

読み聞かせはいつから? どんな絵本が好きだった?

「生後3、4か月からです。リュウゾウが特に好きだった絵本は、『ねないこだれだ』『とべ!ちいさいプロペラき』『もりのなか』の3冊です。『もりのなか』は何度も読んだ本でした。3才くらいの時、久しぶりに読もうとしたら突然、全部暗唱したことがあって、びっくりしたのをおぼえています」

小さい頃、好きだった絵本。

今はまっている本は、本の登場人物がレコメンド!?

今はどんな本を読んでいる?

リュウゾウ君が取り出したのは、『ドリトル先生 月がゆく』。ドリトルシリーズはこれが6冊目だという。

先生や友達に勧められたの?

「ううん。なんだったっけ? お母さんが買ってくれた本の中に、登場人物が『ドリトル先生』を読んだって書かれていて、おもしろそうだなと思いました。あと、『ざんねんないきもの事典』もよく家でパラパラ見てるかな。日本の歴史マンガシリーズも好き。戦国時代がいちばんおもしろい。織田信長が好きです」

今、読んでいるのは『ドリトル先生』シリーズ。

 

現在、読むのは月に1、2冊。

「読む時は、5日くらいで1冊読むけど、読まない時は読まない」。

多読ではないけれど、リュウゾウ君の場合、絵本から児童書にスムーズに移行している。

児童書を読み聞かせしてみたら

熱心に絵本を読み聞かせしたとしても、児童書になるとさっぱり読まなくなる子もいる。文字がたくさんあるというだけで、読み続けられないない子も。小学校に上がったとたん、「もう自分で字が読めるでしょ」とばかりにピタっと止めてしまう家庭もあるが、子どもが望むうちはできる限り続けたほうがいい。

児童書を読み聞かせするのもひとつの手だ。
児童書への移行期は、字を追うので精一杯で物語を楽しむところまでいけないことも多いからだ。リュウゾウ君の場合も、モトコさんの『びりっかすの神様』『二分間の冒険』などの読み聞かせが移行期を支えたのだろう。

スムーズに移行できた秘密はほかにはない? 質問を投げかけているうちに、キーワードに当たった!

ラジオだ。

ラジオ中継=ストーリーテリングと同じ効果が!

テレビは見ないわけではないけれど、ながら見はしないのが家庭の方針。そのかわり、ラジオは毎日の暮らしに欠かせない。というのも夫婦ともに、ラジオの世界で長く働いた経験があるのだ。朝も目覚まし時計ではなく、ラジオで起きる。

リュウゾウ君は中日ドラゴンズが大好きだが、東京では地上派テレビで試合を観るチャンスはあまりない。BS放送でも観られるが、あえてラジオを選ぶ。ネットで東海ラジオの野球中継を聴く。

「ルールが分かって、ダイヤモンド(各ベースを結んだライン)で何が起きているか想像できないと、野球中継は面白くありません。耳で聴く力が育っているかも知れません」

ストーリーテリングと同じ効用だ。語り手が覚えたおはなしを子どもたちに語って聞かせるストーリーテリングは、絵本や紙芝居のように視覚に訴えるものがないので、耳で聴きながら子どもたちはイメージをふくらませていく。リュウゾウ君は大好きな野球中継を聴きながら、想像力も養っていたということだろう。

*     *     *

後日。ドリトル先生を知ったのは岡田淳作『夜の小学校で』だった、と、リュウゾウ君が教えてくれた。
本からまた新しい本へ。本の登場人物による別の本のレコメンドで、興味が広がっていく。

リュウゾウ君が夢中な本はこちら


『中日ドラゴンズ80年史』著/中日ドラゴンズ 中日新聞社

 


『プロ野球12球団春季キャンプの歩き方 2019』芸文社

 


『最新一番よくわかる少年野球ルールブック』著/Winning Ball 西東社

 


『耳の聞こえないメジャーリーガー ウィリアム・ホイ』文/ナンシー・チャーニン 絵/ジェズ・ツヤ 訳/斉藤洋 光村教育図書

 


『週刊ベースボール』ベースボール・マガジン社

 


『チョコレート戦争』作大石 真/絵北田 卓史/理論社

 


『二分間の冒険』著/岡田淳 絵/太田大八 偕成社

 


『大どろぼうホッツェンプロッツ』作/プロイスラー 絵/トリップ 訳/中村浩三 偕成社

 


『くろて団は名探偵』シリーズ 作・絵/ハンス・ユルゲン・プレス 訳/大社玲子 岩波書店

 


『びりっかすの神さま』作/岡田淳 偕成社

 


『かいけつゾロリ』さく・え/原ゆたか ポプラ社

 


『サバイバル』シリーズ 朝日新聞出版

 


『空想科学読本』シリーズ 著/柳田理科雄 PHP研究所

 


『ドリトル先生 月がゆく』作/ヒュー・ロフティング 訳/井伏鱒二 岩波少年文庫

 


『ざんねんないきもの事典』監修/今泉忠明 高橋書店

 


『日本の歴史』シリーズ 集英社

 


『夜の小学校で』作/岡田淳 偕成社

 


『ねないこだれだ』さく・え/せなけいこ 福音館書店

 


『とべ!ちいさいプロペラき』作/小風さち 絵/山本忠敬 福音館書店

 


『もりのなか』ぶん・え/マリー・ホール・エッツ やく/まさきるりこ 福音館書店

取材・文/須藤みか
ノンフィクションライター。長く暮らした中国上海から大阪に拠点を移し、ライターとして活動中。現在は、「子どもと本」「学童保育」など子どもの育みをテーマにしたものや、「大阪」「在日中国人」「がん患者の就労」について取材中。東洋経済オンラインなどに執筆している。著書に『上海ジャパニーズ』(講談社+α文庫)他。2009年、『エンブリオロジスト 受精卵を育む人たち』で第16回小学館ノンフィクション大賞受賞。地元の図書館や小学校で読み聞かせやブックトークも行っている。JPIC読書アドバイザー。小学生男子の母。

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