服に付いているポンポンが事故につながることも。「標準化」で守る子供の安全【Safe Kids Japan】

重大なケガをしないように備えることを、Safe Kids Japan では「傷害予防」と言っています

「事故」という言葉を辞書で調べてみると、「思いがけなく起こった良くないできごと」とあります。英語で言うとaccidentですね。accidentは「意図しない不幸なできごと」という意味で、「避けることができない運命的なもの」という意味も含まれています。海外でもかつてはaccidentを使っていましたが、最近ではinjuryという言葉が使用されるようになりました。injuryは「ケガ」「負傷」という意味です。「事故」は科学的に分析し、きちんと対策すれば「予防することが可能」という考え方が一般的になり、「運命的な」という意味を含むaccidentではなく、injuryという言葉を使用することが勧められるようになったのです。今ではaccidentという言葉の使用を禁止している医学誌もあるくらいです。

そのinjuryに対応する日本語として、Safe Kids Japanでは「傷害」という言葉を使っています。よく「事故予防」と言われますね。もちろん事故そのものが起きないことがいちばんなのですが、たとえ事故が起きたとしても、(重大な)ケガはしないように備えよう、そんな思いも込めて、「傷害予防」と言っています。

私たちが「事故」ではなく「傷害」という言葉にこだわっている理由です。

 

 

わたしのSafe Kids ストーリー〜「子どもの傷害予防」に取り組む人をご紹介します〜

今回ご登場いただいたのは、日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会(以下、NACS)東日本支部「標準化を考える会」代表の田近 秀子さんです。2015年に「子ども服のひもに関する安全基準 JIS L4129」が制定、公示されましたが、このJIS制定に向けて尽力されたのが田近さん達「標準化を考える会」のメンバーでした。

田近 秀子さん(公益社団法人 日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会 東日本支部「標準化を考える会」 代表)

 

 

Safe Kids Japan(以下、SKJ):まず、田近さんが代表を務めている「標準化を考える会」の活動について教えていだけますか?

田近:標準化を考える会」は、NACS東日本支部の有志会員が集まってできた研究会で、社会におけるさまざまな課題を「標準化」という手法を使って解決する道を探っています。

標準化とは、バラバラなものを一定の「取り決め」に従って統一していくことです。たとえば電池の大きさに「単一」とか「単三」などがありますが、形・電圧などを標準化、統一してどこのメーカーの電池でも使えるようにしています。

安全基準を作るのは、これまでは事業者、つまり製品を製造する企業などが中心でしたが、使う側である私たち消費者の視点で見て、基準(規格)に消費者の声を反映することを活動の目的にしています。特に、自分ひとりでは危険を回避できない「子どもの安全」は研究会メンバー全員、関心があります。

SKJ:その活動が結実して「JIS L4129」が制定されたのですね。JIS制定にいたるまでのお話をお聞かせいただけますか?

田近:活動をする中で、子供服に付いているフードや首まわりに付いているひもの危険性がわかり、子供服の安全基準(JIS規格)を作る必要性を訴えようということになりました。JIS規格(日本工業規格)とは、消費者が安心して製品を利用するための、国内の公的な統一基準です。

SKJ:JISというと工業製品や電化製品が対象、というイメージですが、子供服にも適応されているのですね。

田近:はい、子供服も工業製品なので、JISの対象になります。すべり台などの遊具に子供服の首まわりに付いているひもが引っかかると、ひもが引っ張られて首が絞まり、窒息の危険性が生じます。窒息は、生命に危険をおよぼす重大な事故です。短時間の窒息でも死亡や脳などに与えるダメージが非常に大きく、とても怖いものです。上着やズボンの裾に付いているひもも、乗り物や自転車に引っかかり、ケガをする恐れがあります。

事故を予防するためにも子ども服に安全基準を作らなければ、という思いで基準づくりを推し進めました。保育の現場調査をはじめ、実践を重視した地道な方法で活動を進め、JIS規格が制定されるまで5年と長い時間がかかりました。

 

SKJ:それは大変でしたね。他にはどのような調査をされたのですか?

田近:売られている子ども服の実態を把握するために市場調査もしました。通販やインターネットの商品検索からは、フードの引ひもの先端にポンポンの飾りが付いているものや、大きなリボンが付いている商品が多数販売されていて、危険な子ども服が市場に出ているのが確認できました。

このかわいらしいポンポンが重大事故につながることがあるなんて、なかなか想像できませんよね。だからこその「標準化」なのです。

 

子供服を作る事業者にも製造時の基準について調査しましたが、回答から浮かび上がってきたのは、フードやひもを付ける服の対象年齢やひもの長さなど、各社の自主基準はさまざまで、安全対策もバラバラだということでした。これが標準化を推進する上での根拠になりました。子供の安全は大事という企業は多く、中小事業者からは、「大手と違い、自分達だけでは規格を作れない。(JIS規格を)作ってくれればありがたい」、「お互いが持っている子ども服に関する事故情報を共有できれば安全な子ども服ができる」という声もいただきました。

また、大手の子ども服専門企業からは、「保護者の方から、『子供同士でパーカーのひもを引っ張り合い、転倒して首が締まりそうになった。危険だ』という声が寄せられ、ひものないデザインに改善した」という話も聞きました。

 

SKJ:事業者の皆さんも危機感をお持ちだったのですね。

田近: そうですね。そこで、事業者の実態調査を基に、子供服の安全性をテーマにしたセミナーを開催し、問題提起をしてJIS化の必要性を訴えました。それをある新聞社が取材してくれ、多くのメディアが取り上げるようになって、関心が高まりました。同じ時期に、日本小児科学会のInjury Alert(傷害速報)で、フード付きパーカーで首が締まった事故が報告されたことも後押しになりました。

参照:フード付きパーカーによる溢頸

 

SKJ:子供たち自身の声も集めたそうですね。

田近:はい。2013年、14年、16年の夏休みに、経済産業省の「こどもデー」というイベントに参加し、服に付いているひもやフードについて、子供たちの意見を聞きました。これは大変興味深い回答が得られました。子供服は保護者、特に母親が購入することが多いですが、子供は、ひもが学校の鉄棒や教室の机、イス等に引っかかることを経験しており、保護者よりも子どもの方が危険性をよく知っていることがわかりました。

 

経済産業省「こどもデー」で

 

SKJ:そのような経緯があって、2015年にJISとして制定されたのですね。

 

田近:はい。ようやく2015年12月に、子ども服のひもの安全 JIS規格(日本工業規格)として制定されました。JIS規格にはそれぞれ番号がついており、この規格は「JIS L4129(ヨイフク)」という、大変覚えやすい番号を付けていただきました。規格は、通常作る側の事業者主導で作られることがほとんどですが、この子ども服の規格は、使う側である私たち消費者から強く要望して作成したことが特徴です。ひもだけでなくフードにも基準が必要と強く主張しましたが、残念ながら規格の附属書扱いになりました。それでも附属書に記載されたことで、フードが外せるパーカーなどが多くなり、一定の効果はあったと思います。

 

SKJ:これで安心して子ども服を購入することができますね。

田近:規格ができた後は、店頭販売などでは危ないひもの付いた服は大変少なくなりました。しかしJIS規格は任意の規格なので、メーカーなどへの強制力はありません。規格外の製品も販売される可能性は残っているのです。なので、私たち消費者も、子ども服を購入する際に、デザインのかわいらしさや価格を最優先に考えるのではなく、安全性についてもチェックすることが必要です。

 

国内で販売されている製品は安全だろう、と考える消費者は多いのですが、市販されている製品の中にもさまざまなリスクが潜んでいる事実を認識して、安全な製品を選ぶ「目」を養うことが大事だと思います。

 

SKJ:フリーマーケットやオークションに出す時も留意しなければなりませんね。

田近:そのとおりです。今はネット上のフリーマーケットが盛んで子ども服もたくさん出品されていますが、出品する側も購入する側も危険性のチェックをしていただきたいと思います。そんな時にひとつの指針となるのがJIS規格なのです。

参考<JIS L 4129規格の主な内容>

首まわりに垂れ下がったり背中に付いたひも、長めの上着やズボンの裾から下がるひもは禁止です。またウエストのひもなど、場所によりひもの長さなどが決められています。その他の部分は、服を平たく伸ばした状態で、ひもは14㎝を超えて突き出てはいけません。

 

SKJ:現在はまた別の課題に取り組んでおられるそうですね。

田近:はい。今は、「助けや危険を知らせる音」の統一基準の作成を検討しています。助けや危険を知らせる音の身近な例として防犯ブザーの音がありますね。2017年10月に東京都大田区で女子小学生に声をかけ誘拐しようとした事件がありましたが、その際、女児が持っていた防犯ブザーを鳴らし、容疑者は現場から逃走しました。これは防犯ブザーの「音の効果」が発揮された事例です。しかし、実は防犯ブザーの音色はさまざまなのです。

 

SKJ:防犯ブザーの音にはいろいろあるということですか?

田近:そうなのです。いくら防犯ブザーを鳴らしても、その音を聞いた人が何の音であるかわからなければ、助けることもできません。自治体でも、防犯ブザー機能がついたスマートフォンのアプリ等を配信し活用されていますが、音色は統一されていません。

防犯ブザーは、その音を聞いただけで、誰もが「助けを求めている」ことを理解し、速やかな救難行動をとれることが大切です。子供の連れ去りなどの事件が後を絶たない今日、すべての人の命を守るために統一した「助けを求める音」をデザイン・標準化することは大変有用です。また、聴覚に障がいのある方達に対しては、振動や光の点滅を加えることにより、音の伝達機能を補完することができます。振動や光の点滅は、聴覚障がいのある方が「誰かが助けを求めている」と認知することができ、救助行動をとることにつながります。障がいのある方が助けを求める時にも、逆に自らが他者を助けることにも貢献でき、音のユニバーサルデザインにつながると考えています。そして、その標準化した音を、防犯ブザーをはじめ、携帯、スマホ、自治体等からの緊急速報システムにも活用することを期待しています。

 

SKJ:「あ、この音は誰かが助けを求めている音だ!」と誰もがわかる音に統一する、ということですね。

田近:そのとおりです。この取り組みにつきましては、行政、企業、団体等、多くの皆さまとの連携が必要です。人の命を救い安全を図るため、当研究会の活動にご支援いただければ嬉しく思います。

 

SKJ:それでは最後に、10年後にはこんな社会になっていてほしい、10年後のご自身はこうありたい、といったあたりをお聞かせいただけますか?

田近:孫が生まれたこともあり、ますます子供に対する愛情・関心が深まっています。現在、住んでいる八王子市で「人権擁護委員」という活動をしていますが、子供に関しては、法務局などで子ども電話相談や「SOSミニレター」という相談の手紙の返事書き、小・中学校でいじめをなくすための人権教室などを行っています。

 

記事監修

Safe Kids Japan|

事故による子どもの傷害を予防することを目的として活動しているNPO法人。Safe Kids Worldwideや国立成育医療研究センター、産業技術総合研究所などと連携して、子どもの傷害予防に関する様々な活動を行う。

 

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