きっかけはテレビとマンガ!? 読書家はいつからでも育つ 【本好きキッズの本棚、見せて 見せて!第17回】

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子どもって、大人には理解不能のものに突如ハマるってことが、ありますよね。どうしてそんなことに興味もったの…?と。
今回は各種の興味が「読書」に向かっていっている男の子、大阪の私立小5年生の話。子どもの興味は無尽蔵…本好きになるきっかけも果てしなくあると気づきますよ。
ノンフィクションライター・須藤みかさんが、お宅を訪問します!

イラスト/烏山ミライ

お気に入りの玩具を持って外出する子と同じこと?  彼は本と共に移動する…

読書は月に約20冊。好きな作家は重松清で、今までで一番おもしろかった本は東野圭吾著『幻夜』。特に好きなのは歴史物だが、映画化された作品の原作本も手に取るし、守備範囲は広い。『夏の庭』や『オリエント急行殺人事件』もおもしろかった。今、読んでいるのは『5分後に意外な結末』シリーズ…。

ここまでくれば、まごうことなき読書家だ。

今回は、5年生の読書家、サトル君(仮名)の話。
サトル君、本の話になったら止まらないの、なんのって。取材の途中も、「○○って読んだこと、ある?」と書名連発なのだ。

「雑食ですよね。何でも読みます。家の中で静かだなと思ったら、本を読んでいますから」と、母のナツさん。

好きな作家は、重松清。最初に読んだのは、『くちぶえ番長』。

 

この2冊はナツさんが勧め、サトル君も好きになった。

 

どこへ行くにも、本を持って行く。1泊2日の旅行でも4、5冊。ちょっとそこまでの買い物や病院に行く時も、2、3冊は持参。サトル君のカバンはいつも本でパンパンだ。
ナツさんがそう教えてくれる横で、サトル君が照れ笑いした。

どうしたらこんな読書家になるのかーー。さかのぼって話を聞かねば。

胎教で読み聞かせ!?  いえ実はプレママの癒やしタイム…

◇読み聞かせを始めたのはいつから?

「妊娠5、6か月の頃ですね。夫がお腹に向かって読み聞かせくれていました。私自身の絵本タイムとして読んでもいました」
妊娠中からとは、この連載でも初めてだ。そのうえ、父がまだ見ぬ我が子へとは! 夫君は医療従事者、そしてナツさんは保健師さん。だからなのか。

◇やっぱり胎教にいい? お仕事の時にも妊婦さんに勧めている?

「絵本は胎教にもいいと思いますが、お母さんの気持ちが落ち着いて、ゆったりさせる効果もありますから。残念ながら、私はビジネスマンの健康指導担当なので、妊婦さんにおすすめする機会はないのですが、友人が妊娠した時には、いつも絵本をプレゼントしてきましたよ」
妊婦時代によく読んだのは、『がたん ごとん がたん ごとん』『コトコトでんしゃ』『てとてとだんごむし』など。

読み聞かせは子どもがその気になる「あること」をしてから

「生まれてからは、寝る前に毎日2、3冊読み聞かせしました。サトルが好きだったのは、『おばけのコックさん』『おたすけこびと』『くらげのりょかん』『もこもこもこ』です。『トマトさん』も好きで、さんざん読まされました」と、目を細める。

サトル君が小さい頃、好きだった絵本。

 

ナツさんは、読み聞かせの時にしていたことがあるという。
幼稚園や保育園、図書館などでのおはなし会で、冒頭によく耳にする手遊びだ。ナツさんがしていたのは、「おはなしおはなしパチパチパチパチ♪」。手遊びは、幼い子どもたちの心を一気に引き寄せる。手遊びで始まる読み聞かせは、サトル君にとっても楽しみなものだった。

やがて、幼稚園の年長さんくらいになると、自分一人で読むようになっていった。

テレビドラマも映画もマンガも…読書につながる

◇歴史物が好きになったきっかけは?

「小学校入学時に、おじいちゃんおばあちゃんからプレゼントされた『角川まんが学習シリーズ 日本の歴史』15巻をまず読み始めましたが、きっかけは、2年生の時に放映されたNHK大河ドラマ「真田丸」ですね」
地元であることもあって、家族で毎週楽しみに観たという。サトル君は『真田幸村〜日本一の兵〜』から始まり、『黒田官兵衛 天才軍師ここにあり』『三国志』へと読み進んでいった。戦国時代の武将と野球をする『戦国ベースボール』を読んだのも、この頃だ。

映画「真田十勇士」を観に行った後は、書店に直行。『真田十勇士』を買って、あっという間に読んだ。「映画を観に行った後には書店へ」は、いつものコース。
鉄は熱いうちに打て!だ。子どもの興味は移ろいやすいものだが、興味のある「その時」を逃さなければ、好奇心は高まり、読みたい気持ちも続いていく。

子どもが手に取りやすい複数の場所に本棚

それにしても、サトル君がここまで読書家になったのはなぜなのか。

「やっぱり身近なところに本があったからでしょうか」と、ナツさんからは間髪入れずに答えが返ってきた。

本棚は、2箇所。2階リビングの奥と、3階の子ども部屋そばのスペースだ。
食事ができるまでの少しの間とか、習い事や塾の前のちょっとしたすきま時間にサトル君が向かうのは、リビングの本棚。静かだなと思ってナツさんが本棚のスペースをのぞくと、サトル君が座り込んで本を読んでいる。

子ども部屋そばの絵本中心の本棚。

 

子ども部屋近くの本棚は絵本コーナーになっていて、サトル君は寝る前に読みたい本を選んでベッドへ行くのが習慣だった。サトル君の妹のアカリちゃん(小2・仮名)はすでに児童書に移行しているが、今も絵本を2、3冊読んでから眠る。子どもたちが手にとりやすい場所にいつも本があるのだ。

小学生の強い味方はやっぱり学校図書館

サトル君にとっての「本がある身近な場所」は、もうひとつある。学校図書館だ。一般の児童書は言わずもがな、世のベストセラーや映像化された原作本も学校図書館にある。
ラインナップはかなり充実していて、サトル君は毎日ほぼ何かしらを借りてくる。

妹のアカリちゃんが小さい頃、好きだった絵本。このほかに、『あなたが生まれるまで』もよく読み聞かせしたそう。

 

アカリちゃんも、サトル君が楽しそうに本を読むのを見ていたからだろう。1年生の夏休みあたりから、「絵ばっかりの本はつまらない」と、文字量の多い本を学校図書館から借りて来るようになった。
好きな本は、お医者さんが出てくるものだ。

掘り出しものは古本があつまるイベントで

なんでも、サトル君が毎年楽しみにしている学校イベントがあるという。学園祭で開かれる古本市だ。大きなカバンを持って1日中、本を探して回るのが楽しいと話す。

「毎回、10冊くらいは買います。今まで読んだなかで一番好きな『幻夜』を見つけたのも古本市です」(サトル君)

本は、一律100円。子どもたちもお小遣いで楽しみながら何冊も買うことができる。サトル君には、至福の時に違いない。今年もたくさん買い込んできた。

新刊本は別のお財布から…

最近は、ひとりで新刊書店に出かけるようになった。資金源は、おじいちゃんおばあちゃんが毎年、誕生日とクリスマスに贈ってくれる図書カードだ。

「知らない間に、こんな本があってびっくりしちゃって」とナツさんが見せてくれたのは、『願いをかなえる仏像なぞり描き帳』だった。サトル君は絵を描くのも好きだというから納得の選書ではあるが、仏像とは渋い。

初詣に行けば、もらったばかりのお年玉を使って境内で社寺建築の専門書を買う。
骨折して病院に行った時には、待合室に置いてあった雑誌で手塚治虫の記事を読み、その後、手塚治虫を読みあさった。
大学時代考古学を専攻していたおじいちゃんの書棚で見つけてもらったのは、発掘情報が書かれた本…。

目に留まるものすべてがサトル君の好奇心をくすぐり、本へと向かわせている。

阿修羅。こちらはなぞらずに、写真を見ながら描いた。

▼サトル君が夢中になった本はこちら

◎お気に入りは


『幻夜』著/東野圭吾 集英社文庫


『くちぶえ番長』著/重松清 新潮文庫


『きみの町で』著/重松清 新潮文庫


『トワイライト』著/重松清 文春文庫


『夏の庭』著/湯本香樹実 新潮文庫


『オリエント急行殺人事件』著/アガサ・クリスティ 訳/花上かつみ 絵/高松啓二 講談社青い鳥文庫


『5分後に意外な結末』シリーズ 学研プラス

◎胎教?で読んだ本


『がたん ごとん がたん ごとん』さく/安西水丸 福音館書店


『コトコトでんしゃ』著/とよたかずひこ アリス館


『てとてとだんごむし』さく・え/みなみじゅんこ ひさかたチャイルド

 

◎幼少期のリピート絵本


『おばけのコックさん』さく/西平あかね 福音館書店


『おたすけこびと』文/なかがわちひろ 絵/コヨセ ジュンジ 徳間書店


『くらげのりょかん』作・絵/やぎたみこ 教育画劇


『もこもこもこ』さく/たにかわしゅんたろう え/もとながさだまさ 文研出版


『トマトさん』さく/田中清代 福音館書店

◎歴史もの好きのはじまりに


『角川まんが学習シリーズ 日本の歴史』角川書店


『真田幸村〜日本一の兵〜』著/藤咲あゆな ポプラ社


『黒田官兵衛 天才軍師ここにあり』著/藤咲あゆな ポプラ社


『三国志』原作/羅貫中 文/三田村信行 ポプラ社


『戦国ベースボール』作/りょくち真太 集英社みらい文庫


『真田十勇士』日笠由紀 小学館ジュニア文庫


『願いをかなえる仏像なぞり描き帳』監修/政田マリ 画/小酒句未果 宝島社

 

◎小2の妹の好きだった本


『あかんべノンタン』作・絵/キヨノサチコ 偕成社


『ぼくはひなのおにいちゃん』え/さこももみ ぶん/たかてらかよ 文化出版局


『ぶーちゃんとおにいちゃん』作/島田ゆか 白泉社


『あなたが生まれるまで』作/ジェニファー・デイビス 絵/ローラ・コーネル 訳/槇朝子 小学館

取材・文/須藤みか
ノンフィクションライター。長く暮らした中国上海から大阪に拠点を移し、ライターとして活動中。現在は、「子どもと本」「学童保育」など子どもの育みをテーマにしたものや、「大阪」「在日中国人」「がん患者の就労」について取材中。東洋経済オンラインなどに執筆している。著書に『上海ジャパニーズ』(講談社+α文庫)他。2009年、『エンブリオロジスト 受精卵を育む人たち』で第16回小学館ノンフィクション大賞受賞。地元の図書館や小学校で読み聞かせやブックトークも行っている。JPIC読書アドバイザー。小学生男子の母。

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