ユニークな取り組みで話題となっている大阪のイベントで、見つけましたよ、本好き男子のコンビ。
2人が本と“仲良し”になったキッカケは、それぞれ「コミック」「折り紙」と聞けば、興味津々…。
ノンフィクションライター・須藤みかさんが、2人の本棚を尋ねます。
目次
本をめぐる異色のイベント、ただいま人気上昇中!
「書評漫才グランプリ」というものをご存知だろうか。
漫才で書評? 意外な組み合わせのように感じるかも知れないけれど、大阪市立中央図書館で毎年11月に実施されているイベントだ。
スタートしたのは、2012年。出場資格は10代であること。プロの芸人さんも輩出していて、年々出場者も増えている。4回目からは「中学生以上の部」と「小学生の部」に分かれて行われるようになった。
観覧者からも「本を読むきっかけになりそう」「年々レベルが高くなっていて、小学生とは思えない」などと評価が高い。
持ち時間は3分。評価基準は、
1「その本が読みたくなったか」
2「紹介の面白さ」
3「本への思いやインパクト」
この3点だ。
8回目となった今回、「小学生の部」は福岡からの参加もあり、14組が漫才を披露した。
そして優勝したのは大阪府の6年生の親友コンビ「オバチャン テラチャン」。
2人が取り上げた本は、学習漫画の『よくわかる俳句』だ。芭蕉の名句を随所に折り込み、ボケ・ツッコミのかけあい楽しく、3分間会場を沸かせ続けた。
そんな2人の本棚には、さて、どんな本が並んでいるのか。
コミックは漢字の先生。さらに笑いの素養にも
まずは、ツッコミ役のテラちゃん親子を訪ねた。
テラちゃんの母、アヤノさんが「この子の原点はこれなんです」と言いながら見せてくれたのは…。コミックの『鬼灯の冷徹』。
地獄コメディとでも言えばよいのか、ちょっと頼りない閻魔大王を支える鬼灯補佐官を主人公に、古くから伝わるおとぎ話の主人公や歴史上の人物らが登場する。
テラちゃんは、これを読むうちに歴史とか社会が好きになったんだそう。
保育園のころから母につられて本(コミック)を
アヤノさんが続ける。
「まず私が好きになって、気づいたら息子も読むようになっていました。
いつごろから?
「そうですね、保育園のころからだったと思います。コミックを読むうちに漢字を覚えていきました。言葉の走らせ方が漫才的になったのも、この影響かもしれません」
保育園のころからとは、ビックリ! 大好きなお母さんが読んでいるものを、自分も読んでみたいと思ったのだろう。とすると、絵本はどんなものを?
「この子に初めて読んだ絵本は『もこもこもこ』です。本屋さんに行ったら、“生まれてはじめて読む絵本”と書かれていたので買ったんですが、すごく反応していました。ハイハイしている時から、この本をズルズル持って来るので、いつも読んでいました。読みすぎてボロボロになったので、同じ本をもう一度買ったくらいです」
ほかには?
「『もったいないばあさん もりへいく』も好きでしたし、年長さんのころにすごくハマっていたのは『ねんどろん』でした。保育園にお迎えに行くと、いつも絵本を読んで待っていました。…あ、そう言えば、保育園の先生から、お笑いのセンスがありますね、と言われていました」
すると、テラちゃんが絶妙のタイミングで「ぼくのピークは年長の時です」と口にするので、思わず笑ってしまった。
コミックに傾倒。でも作文も好き
ふだん読むのは、マンガが多い。『鬼灯の冷徹』のような、対象年齢が少し高めの青年コミックだ。『こちら葛飾区亀有公園前派出所』や『ブラックジャック』など。
「仏教のマンガもおもしろい」とテラちゃんが言うので、学習マンガかと思いきや『聖☆おにいさん』だった。確かに、おもしろい! そして先日読んだのは、『まんがでわかる論語』だそうだ。
だからと言って文字ばかりの本を一切読まないわけでもない。『空想科学読本』も好きだし、学校で夏休みに取り組む読書感想文にも真面目に取り組んでいる。作文を書くのも好きなんだという。コミックを読むことで想像力や読解力を知らず知らずのうちに育んでいたということだろう。
書評漫才グランプリの漫才台本は、担任の先生が書いてくれたそうだが、「自分で作るのはまだまだ実力が足りないけど、いつか台本を書いてみたいです」と話す。
「国語と社会が得意なのね」とテラちゃんに確認すると、「社会と国語、のみ、です」と「のみ」を強調して笑わせてくれるのだった。
続いて、ボケ担当のオバちゃんの家へ。
読み聞かせしなくても、ハマった本がある!
「うちは小さいころ、読み聞かせとかしていなくて…。この子にとっての最初の本は、これなんですけど」
と、母のユカリさんがためらいながら出したのは『親子であそぶはじめてのおりがみ①』だった。なんでも近所の幼稚園では折り紙が盛んで、毎月のように折り紙を使った工作物を作るのだという。4つ上のお兄ちゃんが苦労したこともあって、オバちゃんには入園前からやらせようと思った。
するとオバちゃん、すっかり折り紙にハマった。最初の本だけでは飽き足らず、2冊めを購入したという。次にユカリさんが手渡したのは、ドリルの『かがくのおはなし 小学1年』『かがくのおはなし 小学2年』。これも楽しんで取り組んだ。
やっぱり、本のある環境…かも
オバちゃんの本棚には、たくさんの本が並ぶ。本の好きな子に育てるには、家庭での絵本の読み聞かせが大切――。通説のようにそう言われているが、オバちゃんには当てはまらない。では、なぜ本好きに?
「どうしてでしょう? お父さんもお兄ちゃんも本が好きで、その姿を見ていたからですかね」(ユカリさん)
『坂本龍馬は名探偵!!』『ルパン対ホームズ』など本棚に並ぶ青い鳥文庫は、お兄ちゃんから譲り受けたものだという。『恐竜まみれ』『ぼくは恐竜探検家!』『恐竜の教科書』…。
恐竜の本もたくさんあるけど、これもお兄ちゃんから?
「2年生の時に、お母さんに恐竜図鑑を買ってもらって、恐竜ってカッコいいなと思いました」とオバちゃん。将来の夢は、古生物学者だ。だから、あこがれの北大教授で古生物学者の小林快次さんの本が何冊もあるのだ。
将棋の本が多いのも、お父さんやお兄ちゃんが将棋をする姿を見て好きになったから。強くなりたくて、将棋の本も買ってもらった。今では、お父さんよりもお兄ちゃんよりも将棋が強いとか。腕前は、初段だ。
担任の試みがドンピシャ。爆発的に読書家に
お父さんやお兄ちゃんの姿を見て、自然に本好きになっていったオバちゃんだが、「爆発的に読むようになった」きっかけがあるという。
書評漫才の出場を勧めてくれた担任の先生は、5年生の時からの持ち上がり。5年生の4月、先生が「読書記録 5000ページの旅」をしようと呼びかけた。読んだ本のページ数をカウントして足していき、5000ページを達成しようというものだ。1冊200ページの本なら、25冊読んだら達成だ。
ほんわかした雰囲気のオバちゃんだが、実はかなりの負けず嫌い。クラスの誰よりも速く5000ページを達成しようと決めた。
学校の図書館や地域の図書館で本を借りてくるだけではもどかしい。出かけた先は、自転車で5分のところにあるチェーン店の「古本市場」だ。わきめもふらずに、そこの80円コーナーへ。
1冊80円の本を買っては読む、を繰り返した。もともと本好きだから、楽しくて仕方ない。今年も行われた「5000ページの旅」は5月には、クラスで一番速くゴールインした。
同じ絵本を何度も読み、保意園のころからマンガが大好きだったテラちゃん。絵本はあまり読んでないけど、爆発的に本を読むオバちゃん。2人の歩みは違うけれど、ともに国語と社会が大好きで、表現力が豊かな小6コンビ。書評漫才グランプリで優勝するのもうなずけた。
2人が夢中になった本はこちら
『よくわかる俳句』文/五十嵐清治 監修/山口仲美 漫画/高橋タクミ 集英社
『鬼灯の冷徹』作/江口夏実 講談社
『もこもこもこ』作/谷川俊太郎 絵/元永定正 文研出版
『もったいないばあさん もりへいく』作・絵/真珠まりこ 講談社
『ねんどろん』作/荒井良二 講談社
『こちら葛飾区亀有公園前派出所』作/秋本治 集英社
『ブラック・ジャック』作/手塚治虫 秋田書店
『聖☆おにいさん』作/中村光 講談社
『まんがでわかる論語』著/齋藤孝 まんが/備前やすのり あさ出版
『ジュニア空想科学読本』著/柳田理科雄 角川つばさ文庫
『親子であそぶはじめてのおりがみ①』構成/ペーパー・ステーション ポプラ社
『かがくのおはなし 小学1年』学研教育出版
『科学のおはなし 小学2年』学研教育出版
『坂本龍馬は名探偵!!』作/楠木誠一郎 絵/岩崎美奈子 講談社青い鳥文庫
『ルパン対ホームズ』作/モーリス・ルブラン 訳/日暮まさみち 絵/青山浩行 講談社
『新版 きょうりゅう』監修/小畠郁生 恐竜イラスト/藤井康文 小学館
『恐竜まみれ 発掘現場は今日も命がけ』著/小林快次 新潮社
『ぼくは恐竜探険家!』著/小林快次 講談社
『恐竜の教科書』著/ダレン・ナイシュ、ポール・バレット 監訳/小林快次、久保田克博、千葉謙太郎、田中康平 訳/吉田三知世 創元社
『マジック・ツリーハウス』著/メアリー・ポープ・オズボーン 訳/食野 雅子 KADOKAWA
取材・文/須藤みか
ノンフィクションライター。長く暮らした中国上海から大阪に拠点を移し、ライターとして活動中。現在は、「子どもと本」「学童保育」など子どもの育みをテーマにしたものや、「大阪」「在日中国人」「がん患者の就労」について取材中。東洋経済オンラインなどに執筆している。著書に『上海ジャパニーズ』(講談社+α文庫)他。2009年、『エンブリオロジスト 受精卵を育む人たち』で第16回小学館ノンフィクション大賞受賞。地元の図書館や小学校で読み聞かせやブックトークも行っている。JPIC読書アドバイザー。小学生男子の母。