小さい頃は本(絵本)が好きだったのに…というため息話はよく聞きます。でも、「好き」の芽は、ちゃんと育っているんですよ!
今回は、活字から離れた息子さんが読書家に戻った、という話を先輩ママから聞きました。ノンフィクションライター・須藤みかさんの連載、最終回です。
目次
家庭内外で読み聞かせ!!
今回話を聞かせてもらうのは、絵本の読み聞かせやベビーマッサージのサークルなどを主宰する、千葉県在住のアユさん。
せっかくだから、サークルものぞかせてもらった。
「今日のテーマは、私が子どもたちと一緒に楽しんだ本です」
『いいおへんじできるかな』『ロージーのおさんぽ』『サンドイッチサンドイッチ』『もこもこもこ』『ぷくちゃんのすてきなぱんつ』…。子育てエピソードを織り交ぜながらの読み聞かせに、参加したお母さんたちも興味津津だ。お母さんたちからも共感する声が上がっていた。
サークルが終わったところで話を聞いた。アユさんには高2のハナちゃん、中2のタク君、小3のユイちゃんの3人の子どもがいる。きょうだいでも本の好みは少しずつ違うし、本との距離感も微妙に異なる。
「長女のハナへの読み聞かせは、毎日と言うわけではなかったですが、1冊は読んでいました。自然にひとりで本を読むようになって、時々、『こんな本もあるよ』と私から勧めることもありました。多少、意図的に誘導したところもあったかも知れません。小学校3、4年生で偉人伝にハマり、その後『長くつしたのピッピ』や『十五少年漂流記』などを読んで、中学校1、2年生で東野圭吾などの推理小説、高校生になって古典や哲学的なものを好むようになりました。毎月、8〜10冊くらい読んでいるようです」
面白い本があるとアユさんに伝えてくれるそう。
「私もその本を読んで一緒にその話題で盛り上がりたいと思うんですが、なかなかゆっくり時間がとれなくて…。ハナと長男のタクは、本の話をよくしていますね。ハナが『へー、今それを読んでるの。じゃ、これも読んでみなよ』と手渡すと、タクは読んでいます。それを悔しいなぁと思って私は見ています(苦笑)」
ほー。思春期の姉弟が本の話をしているなんて、いいですね!
ゲーム機を没収。やることがなくなって…
「実はタクは1年くらい前までゲーム漬けで、平日でも2、3時間、休日は10時間くらいしていました」
今は月に均せば5冊くらい読んでいるという。ゲーマーから一転、読書男子に。どうして?
「学校の先生からも『気もそぞろで、上の空な感じ』と言われ、家では宿題をちょっとするくらい。何も楽しいことがなくて、ゲームをするしかなかったんだなと思うんですが、成績は落ちていくし、何を言っても心に響いていない。ゲームを一時的に禁止したりもしたんですが、本人が納得しないのに取り上げても良くない。私もイライラしていたと思います」
悶々とした時間が過ぎていく。そして中1の夏休みが明け、テストがあった。
「結果を目にしたら、本人も納得して、ゲームを取り上げることになったんです。それまでゲームしかやっていなかったので、することがない。この子、どうするんだろう、と心配もしていたんですが、冬になった頃でしょうか、いつの間にか本を読むようになっていました」
暇を持て余したその先の、文字通り目前に「本」が!
アユさんの家は、眠る部屋に大きな書棚がある。絵本が1,500冊、マンガ200冊、児童書や一般書もあわせると全部で3,000冊ぐらい。2段ベッドの上段がタク君のスペースで、のんびりしたい時にはそこへ。ちょうどタク君の視線の先に、本があったのだ。
「本なら買ってあげるよ」と以前から伝えていた。家の本を読む、本を買う、学校図書館の本を借りる…。読むわ読むわで、いつの間にかきょうだいの会話も、親子の会話も増えていた。
「『お母さん、これ面白いよ』と本を紹介してくれることが嬉しいです。学校でも図書委員になったそうで、『すごいね』と言うといやがるだろうから、心の中でほくそ笑んでいます」
小学生の頃の“時々読書”と妹への読み聞かせが活字復活へのカギ
聞けば、タク君、小学生の頃は探偵ものなどライトノベルを時々読んでいたそう。ゲーム漬けになっていた時も、アユさんが末っ子ユイちゃんに読んでいた絵本は耳に届いていた。
「ユイに読み聞かせしていると、『オラにもおすすめの本、読んでよ』『オラにぴったりの本、読んで』と言う時がありましたし、今もあります。聞いていないようで、耳だけこちらに向けているなと思う時もあります。
そう言えば、タクが小6の時、学校で好きな本を紹介する時間があったんですが、選んだのは『ライフタイム』でした。読んであげたこともなかったし、読んでいる姿も見たことがなかったので驚きました。ゲームばっかりしていると思っていましたけど、知らない間に読んでいたんですよね。本を選ぶセンスも、おっ!いいな、と思いました」
本から離れる時があっても、本の楽しさを知っている子はまたいつか本に戻ってくるということだろう。
雑に読み聞かせをして泣かせたことも。無理しないのが一番と痛感
最後は、読み聞かせ続行中の末っ子ユイちゃんの話を聞こう。
「読み聞かせだけでなく、絵本の講座や原画展などにもよく連れて行きました。ユイを育てながら、私自身が絵本との関係を深めていったので、上の2人よりも絵本のある暮らしの中で育ってきたと思います。今も読み聞かせは続けています。基本は、ユイが読みたい本を読みますが、私が仕事で使いたい本を聞いてもらうこともあります」
ただ、無理はしない。仕事などで疲れて元気がない時は、おだやかな気持ちで読めないので、「お母さんは読みたくない気分だから」と説明をする。雑に読んでしまって、泣かせてしまったことがあったからだ。また、ユイちゃんが就寝時間になっても遊んでいた時に「読んで」と言われても「短い絵本にしてね」と伝える。
「どこかに連れていってという希望は応えられないことも多いですが、絵本の世界にはいつでも連れて行ってあげられますから、読んであげたい。でも、読んでと言われて読めなかった翌朝や帰宅した後に、『今、読むよ』と言ってもたいてい断られます。押し付けはやっぱりダメですね」
ココロがざわついた時こその「絵本力(パワー)」
しかし、すごく叱ってしまった後に、絵本を読んであげることで気持ちを通わせることもある。逆に、友達とうまくいかなかったり、兄妹げんかした時にせがまれる日も。
「この前も友達とケンカしたらしく、思い切り泣いた後に、『今の私にぴったりの絵本、読んで』と言われました。これかなあれかなと絵本を見せながら、『違う』と首をふられれば、『じゃ、これかな』と、シチュエーションにあったものや大好きな絵本を見せて、読む本を選んで行きます。その日も何冊か読んで気持ちが落ち着いたようでした」
絵本が仲直りや心を落ち着かせるクスリというわけだ。
タク君が「自分に読んでくれる時間が好き」とアユさんに口にしたこともあるという。どんどん大人になっていくハナちゃんにも、節目には読み聞かせの時間を贈っている。中学入学の日には『はじまりのひ』、高校生になった日には『たいせつなこと』を読んだ。絵本が生活のなかに息づいている。
昨秋、自宅をリフォームするのにあわせて本棚をオーダー注文した。納期がずれてしまい、ダンボールの中に絵本はしまいこまれたまま。書棚に並べる日を家族みんなが待ちわびている。
きょうだいみんなが好きだった本
『いいおへんじできるかな』きむらゆういち/さく 偕成社
『ロージーのおさんぽ』パット・ハッチンス/さく わたなべしげお/やく 偕成社
『サンドイッチサンドイッチ』小西 英子/さく 福音館書店
『ぷくちゃんのすてきなぱんつ』ひろかわさえこ/さく アリス館
長女ハナちゃんのお気に入り
『三びきのやぎのがらがらどん』マーシャ・ブラウン/え せたていじ/やく 福音館書店
『うずらちゃんのかくれんぼ』きもとももこ/さく 福音館書店
『すてきな三にんぐみ』トミー=アンゲラー/さく いまえよしとも/やく 偕成社
『長くつしたのピッピ』リンドグレーン/作 木村由利子/訳 ポプラポケット文庫
『十五少年漂流記』ジュール・ベルヌ/著 那須辰造/訳 金斗鉉/絵 講談社青い鳥文庫
『おちゃめなふたご』ブライトン/作 佐伯紀美子/文 ポプラ社
『アラルエン戦記』シリーズ ジョン・フラナガン/作 入江真佐子/訳 岩崎書店
長男タクくんのお気に入り
『こびとづかん』なばたとしたか/さく 長崎出版
『あんぱんまん』やなせ たかし/作・絵 フレーベル館
『時の迷路』香川元太郎/作・絵 PHP研究所
『ライフタイム いきものたちの一生と数字』ローラ・M.シェーファー/ぶん クリストファー・サイラス・ニール/え 福岡伸一/やく ポプラ社
『No.6』あさのあつこ/著 講談社
『タラ・ダンカン』ソフィー・オドゥワン=マミコニアン/著 山本知子/訳 メディアファクトリー
末っ子ユイちゃんのお気に入り
『きょうはなんのひ?』瀬田貞二/作 林明子/絵 福音館書店
『ね、ぼくのともだちになって!』エリック・カール/作 偕成社
『てのひらおんどけい』浜口哲一/ぶん 杉田比呂美/え 福音館書店
『ゆいちゃんのりぼんむすび』きたがわめぐみ/作・絵 PHP研究所
『おだんごぱん ロシアの昔話』せたていじ/やく わきたかず/え 福音館書店
『ひみつシリーズ』学研
『おばけのあっち』シリーズ 角野栄子/さく 佐々木洋子/え ポプラ社
母親アユさんが贈った本
『はじまりの日』ボブ・ディラン/作 ポール・ロジャース/絵 アーサー・ビナード/訳 岩崎書店
『たいせつなこと』マーガレット・ワイズ・ブラウン/さく レナード・ワイスガード/え うちだややこ/やく フレーベル館
取材・文/須藤みか
ノンフィクションライター。長く暮らした中国上海から大阪に拠点を移し、ライターとして活動中。現在は、「子どもと本」「学童保育」など子どもの育みをテーマにしたものや、「大阪」「在日中国人」「がん患者の就労」について取材中。東洋経済オンラインなどに執筆している。著書に『上海ジャパニーズ』(講談社+α文庫)他。2009年、『エンブリオロジスト 受精卵を育む人たち』で第16回小学館ノンフィクション大賞受賞。地元の図書館や小学校で読み聞かせやブックトークも行っている。JPIC読書アドバイザー。小学生男子の母。